信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 運動パフォーマンス向上となる最適な咬合の解明:脳機能と脊髄機能に着目

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.46 Vol.46

 要旨

 歯の噛みしめは運動パフォーマンスに大きな影響をもたらすが,最適な咬合強度や左右の咬合バランスについては不明である.そこで,本研究の目的は,脊髄機能と青斑核の活性に着目して,不均衡な咬合バランスが遠隔促通効果に及ぼす影響を検討することとした.対象は健常成人として,不正咬合者を除外した正常咬合者14 名とした.咬合計測は,最大咬合力,左右の咬合バランスを計測して,咬合が高い側をHyper側,低い側をHypo側とした.筋電図電極は両側の咬筋,前側頭筋,ヒラメ筋に貼付した.咬合条件は歯列の咬合接触がないno-bite条件,歯列の咬合接触はあるが噛みしめていない接触ありcontact条件,右咬筋最大随意収縮(MVC)の12.5%,25%,50%MVC条件とmax条件の6条件とした.脊髄興奮性はH波を用いて評価した.H波の計測は両下肢の脛骨神経に電気刺激をし,刺激強度はヒラメ筋H波振幅値が最大M波振幅値の20%になるように設定した.また,青斑核の活動指標として左右の瞳孔径を計測した.解析項目は各咬合条件での各筋の筋活動,左右のH波振幅値,左右の瞳孔径とした.統計処理として,反復測定二元配置分散分析を行い,事後検定として各咬合条件の比較にはno-biteに対する対応のあるt 検定にBonferroni補正を行い,Hyper側とHypo側の比較には対応のあるt検定を行った.いずれも有意水準は5%とした.
 咬筋と前側頭筋の筋活動は,12.5%,25%,50%MVC,max 条件でhypo 側と比較してhyper側が有意に高値を示した(p<0.05).脊髄興奮性と瞳孔径はno-bite と比較して12.5%,25%,50%MVC,max 条件で有意に高値を示した(p<0.05).また,脊髄興奮性はmax 条件でhypo側と比較してhyper 側が有意に高値を示した(p<0.05). 瞳孔径は12.5%,25%,50%MVC,max条件でhypo側と比較してhyper側が有意に高値を示した(p<0.05).
 本研究の結果より,左右の咬合バランスの不均衡は,青斑核と脊髄興奮性の活動にも不均衡が生じた.青斑核や脊髄興奮性の不均衡は,認知機能や運動機能に悪影響を及ぼすことが報告されていることから,咬合バランスの補正が重要である可能性が示唆された.

 「デサントスポーツ科学」 第46巻/公益財団法人石本記念デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 平林 怜*1, 江玉睦明*1, 岡田芳幸*2, 大西秀明*1
大学・機関名 *1 新潟医療福祉大学, *2 広島大学

キーワード

H 反射瞳孔径青斑核咬筋遠隔促通