信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 噛みしめがもたらす運動パフォーマンスの影響:脊髄機能による検証

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.43 Vol.43

 要旨

 歯の噛みしめは運動パフォーマンスに大きな影響をもたらすが,運動パフォーマンスを発揮するための最適な噛みしめ強度は不明である.そこで,本研究の目的は,噛みしめ強度に伴った運動パフォーマンスと脊髄機能との関係を明らかにすることとした.
 対象は健常成人20 名とした.実験は2 つ実施した.噛みしめ条件として,実験1 は,咬筋最大随意収縮(MVC) の0%, 12.5%, 25%, 50%の4条件とし,実験2は,噛みしめなし(no-bite条件),適度(moderate条件),最大努力(max条件) の3条件とした.実験1では各噛みしめ条件中に脊髄機能の計測と足関節背屈課題,実験2では足関節背屈課題を実施した.脊髄機能では脊髄相反性抑制(RI) と脊髄前角細胞の興奮性を計測した.RIの計測は,条件(総腓骨神経) -試験刺激(脛骨神経) 間隔(CTI) が2ms(Ia相反抑制),20ms(D1抑制) の2条件に試験刺激のみ条件(single) を合わせた3条件とした.脊髄前角細胞の興奮性の計測は,一定の刺激強度でヒラメ筋H反射振幅で計測した.足関節背屈課題は,各噛みしめ条件中に足関節背屈MVCを3 秒間実施した.解析項目は,反応時間,足関節背屈ピークトルク,Sol/TAEMG ratioとした.
 実験1 の結果より,RI は, 噛みしめ強度(25%MVC条件以上) の増加伴い有意に減弱または消失した.脊髄前角細胞の興奮性は,噛みしめ強度の増加に伴い有意に増大した.ピークトルクは50%MVC条件で0%MVCと比較して有意に高値を示した.実験2の結果より,ピークトルクはmoderate 条件,max 条件でno-bite 条件と比較して有意に高値を示し,Sol/TA EMG ratioはmax条件でmoderate条件と比較して有意に増加した. 本研究は,高強度の噛みしめでは(50%MVC以上),拮抗筋同士を同時活性させ筋力発揮させる運動パフォーマンス(関節固定) に適した噛み しめ強度であった.一方で,低強度の噛みしめでは(50%MVC未満),拮抗筋を抑制する機能を残存させ,筋力発揮させる運動パフォーマンス(関節運動) に適した噛みしめ強度であった.

 「デサントスポーツ科学」 第43巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 平林怜, 江玉睦明, 大西秀明
大学・機関名 新潟医療福祉大学

キーワード

H反射筋電図咬筋電気刺激遠隔促通