信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 筋伸張により生じる力を活用した低負荷等尺性トレーニングが筋肥大および筋力増強に及ぼす影響

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.42 Vol.42

 要旨

 健康増進を図るうえで骨格筋量や筋力を維持・向上させることは重要である.一般的にトレーニングにより骨格筋量の増加( 筋肥大) や筋力増強を得るには60 ~ 80%程度の高強度でのトレーニングが必要とされている1-3).しかし高齢者や患者,運動習慣のない者では血圧上昇や筋骨格系傷害等のリスクがあるため,高強度でのトレーニングが実施できないことが多い.そこで低強度でも効果的なトレーニング方法の開発が必要である.よく実施されるトレーニング方法のひとつである等尺性トレーニングにおいて,筋肥大および筋力増強効果を検討した先行研究は散見される.そのほとんどが最大随意筋力の60%以上の高強度でのトレーニングを用いており,筋力増強や筋肥大が生じることを報告している4-7).一方,最大筋力の50%未満の低強度等尺性トレーニングに関する介入研究は我々の知る限り2 つしかない.いずれの研究も筋肥大効果については検討しておらず,また,筋力も有意な変化を認めていない8, 9).このように,低強度での等尺性トレーニングにおいて筋肥大および筋力増強を得るのに有効なトレーニング方法は明らかになっていない.
 筋力発揮時に関節に生じるトルクは,随意的な筋収縮により生じる能動的トルクと筋が伸張されることにより生じる受動的トルクの合計として発揮される.トレーニングを行う際,能動的トルクの発揮量に着目されることが多いが,持続的筋伸張により筋量やタンパク合成率が増加したとの先行研究があることから10, 11),能動的トルクだけでなく,受動的トルクも筋肥大に寄与する可能性が考えられる.受動的トルクも能動的トルクと同様に筋肥大に寄与するとすれば,筋伸張位と筋短縮位において同程度の関節トルクを発揮する等尺性トレーニングを実施する場合,受動的トルクが大きい筋伸張位では能動的トルク発揮が少ないものの,筋短縮位と同程度の筋肥大や筋力増強を得られる可能性がある.筋伸張位と筋短縮位において等尺性トレーニングを実施し,筋肥大および筋力増強効果を調べた先行研究はいくつか存在するが4-6),すべて高強度で実施された研究であり,低強度で検討した報告は見当たらない.高齢者や術後患者のように能動的なトルク発揮を十分に行えず低強度でトレーニングせざるを得ない場合,受動的トルクを利用した低強度トレーニング法は有用な手段となり得る可能性がある.
 以上から,本研究の目的は,筋伸張位と筋短縮位で同等の関節トルクを発揮する低強度等尺性トレーニングを8週間実施し,筋肥大および筋力増強効果を比較することとした.仮説は,同等の関節トルクを発揮するトレーニングを実施した場合,筋伸張位では筋短縮位に比べて能動的なトルク発揮が少なくても,同程度の筋肥大および筋力増強が得られるとした.

 「デサントスポーツ科学」 第42巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 中尾彩佳, 市橋則明, 池添冬芽, 谷口匡史, 本村芳樹
大学・機関名 京都大学大学院

キーワード

筋力トレーニング低強度受動的トルク能動的トルク筋断面積