信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 同種造血幹細胞移植前後のリハビリテーションによる,予後改善効果の解析~移植後早期に高い運動耐性を示すことは,その後の社会復帰の可能性を高める予測マーカーとなる~

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.42 Vol.42

 要旨

 同種造血幹細胞移植( 骨髄移植) は,白血病やリンパ腫などの難治性造血器腫瘍に対して,根治的治療の一つである.移植に際しては長期間に渡って多くの薬剤が用いられ,また免疫力が低下した状態も継続することから,様々な合併症が知られる.これらの急性・慢性の合併症により,行動の制限を余儀なくされることから,生活の質が低下する傾向にある.移植後の合併症を軽減し,生活の質を向上させるべく,運動療法を主体としたリハビリテーションの重要性が示唆されてきた.しかし,積極的なリハビリテーションが,移植後生命予後や生活の質に及ぼす影響は,いまだ証明されていない. 本研究課題では,予後や合併症の有無,生活の質に関する詳細なデータに,リハビリテーションに関するデータベースを融合させて検討する.有効性が証明されれば,移植治療におけるリハビリテーションの普及と標準治療への組み込みを目指すことが目標である.今回のコホート研究では,造血幹細胞移植後の社会復帰の正確な疫学を明らかにし,その予測指標を明らかにすることを目的とした.京都大学病院で移植治療を受けた56 人の患者を登録し,造血幹細胞移植後2年目には40人( 71%) で社会復帰が達成された.社会復帰の失敗は,パフォーマンスステータスの低下および慢性移植片対宿主病 の併発と顕著な相関があり,これらの患者では,6分歩行距離( 6MWD) で測定した退院時の身体機能が著しく低下していた.多変量リスク解析では,性( 女性,オッズ比( OR) 0.07,95%信頼区間( CI) :0.01-0.54,p=0.01),HCT-CI( ≧2,OR0.10,95 % CI:0.01-0.84,p=0.03),6MWDの変化( 5%増加あたり,OR 1.47,95%CI:1.01-2.13,p=0.04) が,後の社会復帰の有意な予測因子であった.本研究は,特に早期に予測マーカーが不良な患者に対しては,リハビリテーションを含む集学的戦略が不可欠であることを示唆しており,移植後の患者の社会復帰と全体的なQOLを改善するためには,運動耐性の低下を防ぐための適切なリハビリテーションプログラムを検討すべきであると結論づけた.

 「デサントスポーツ科学」 第42巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 新井康之, 濱田涼太
大学・機関名 京都大学医学部附属病院

キーワード

リハビリテーション社会復帰6分間歩行距離造血幹細胞移植臨床研究