信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 車いすエルゴメーターを用いたレースシミュレーション中の時空間パラメーターおよびパワー発揮特性の定量化から効率的なストローク技術の分析

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.40 Vol.40

 要旨

2020 年の東京オリンピック・パラリンピック開催の決定により,競技スポーツに関する興味関心は高まっている.このような社会のスポーツに対する期待が高まる中,パラリンピック競技に関しては,国の競技団体への強化支援や環境整備やタレント発掘事業が推進され,選手人口も増加してきた.特に陸上車いすマランソン競技に関しては,過去のパラリンピック大会で数多くのメダルを獲得してきた.一方,トラック競技では,2016年リオ大会において,男子(T 54 クラス)400mおよび1500m 競技で銀メダルを獲得した記憶が新しく,日本と世界の差が縮まってきている.しかし,100m の短距離種目をT53 クラスでみてみると,世界記録の13.63 秒に対して,14.04 秒と世界との差が大きい競技の一つである. 我が国のパラリンピックアスリートへのサポート支援は近年始まったばかりである.障がいクラスの違いなどによって競技ルールが異なり現場のコーチやスタッフは,オリンピックでの選手サポートの経験値が活かされず想定されない問題が多く,手探りの状態でもある.また,パラリンピック競技の特徴として,用具がパフォーマンスに大きく関係する.特に,車いすマラソンの記録をみると,1984 年から2000 年のシドニー大会で,約50 分のタイムが短縮している1).これは,用具の改良によって選手が車いすに乗る姿勢が明らかに変わったことが影響していると考えられる1).選手は,実際のレースストラテジーとして,ある一定の速度領域に到達すると,自らが積極的にハンドリムに力を加えて回転させるより,車輪を減速させない漕ぎ方に移行することが効率的であると経験的に理解している.このような経験則から,陸上車いす競技において最大速度の領域には,ある限界値が存在することが予想される.しかし,このような事例だけにおいても,競技現場の経験値に対する科学的エビデンスが乏しい現状である.パラリンピック競技においては,選手自身の「心技体」の能力,障がいクラス,そして用具など様々な要素を総合的に検討しなければならないが,実際に必要な情報は不足している. 国内外の車いすに関する研究は,リハビリテーションを目的とした報告が多くされているが,陸上車いす競技に関する先行研究は少ない.ChowJW とChae WS 2) は,陸上車いす100m のレースにおいてタイムを決定する要因は,最大速度が影響していることを報告している.一方でTiagoM とBarbosa EC 3) は,2016 年のパラリンピックゲームの車いす100m 競技のレース分析を行った結果,選手の最大速度は100m 区間内で出現せず,最大パワー出力に到達していないことを報告している.このように,近年の車いす競技レースにおいて未だ一致した見解が得られていない状況である. 従って陸上車いすレース中の基本的な速度や,その構成要素となる時空間パラメーターおよび力学的情報の変化を定量化することは,車いす競技におけるトレーニングを考えるうえで重要な資料となると考えた.更に本研究は,車いすエルゴメーターを用いたレースシミュレーションからレースタイムに影響を及ぼす, 1 ストローク技術の違いを検討することを目的とした.

 「デサントスポーツ科学」 第40巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 柏木悠*1, 袴田智子*2, 平野智也*3, 山岸道央*4, 相馬満利*5
大学・機関名 *1専修大学, *2国立スポーツ科学センター, *3日本体育大学大学院, *4松山大学, *5十文字学園女子大学

キーワード

パラリンピック車いすレース分析機械的パワー時空間分析