プロボクサーの試合前後における脳密度変化と脳ネットワーク解析:スポーツ脳科学研究
【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.40 Vol.40】
要旨
ボクシングは体重階級のあるスポーツであり,選手は経験的に試合前に急激な減量を行う.それは常人の減量のような倫理的ハードルを越え,人間生理の限界状態を体現している.しかし,科学的根拠は薄弱で,脳における構造と機能の動態も明らかではない.我々は職業的ボクシング選手(プロボクサー)20 人と,年齢-性別- BMI(body mass index) を合わせた健常者Controlの17 人を対象に,頭部MRI を撮影し,Voxel-Based Morphometry (VBM) 解析とresting-statefunctional MRI (rs-fMRI)解析を施行し,それぞれ脳灰白質密度と機能的結合を比較した.プロボクサーにおいては,試合1 ヵ月前(Time1)から試合直前(Time2),試合後1 ヵ月(Time3)の時系列を追って縦断的動態を追った.その結果,健康被験者と比較して,ボクサー(Time1)は両側島前部が大きかった.また,BMI 変化率(%)に後帯状回サイズとの相関がTime2 とTime3 で観察された.機能的には,Time1 時点で,島部と楔前部(けつぜんぶ)の機能的結合がControl よりボクサーで低かった.島はあらゆる感覚情報の統合中枢であり,後帯状回・喫状部は環境モニタリングに関する中枢である.日頃の鍛錬によるトップアスリート特有の脳構造は島にあり,減量による構造変化は後帯状回に表象された.島と後帯状回の機能的結合性は,ボクサーで低かったことから,プロボクサー達は,それぞれの環境適応とは関係なく,運動感覚統合を発達させ減量を行っているものと示唆する.
「デサントスポーツ科学」 第40巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
ボクシングは体重階級のあるスポーツであり,選手は経験的に試合前に急激な減量を行う.それは常人の減量のような倫理的ハードルを越え,人間生理の限界状態を体現している.しかし,科学的根拠は薄弱で,脳における構造と機能の動態も明らかではない.我々は職業的ボクシング選手(プロボクサー)20 人と,年齢-性別- BMI(body mass index) を合わせた健常者Controlの17 人を対象に,頭部MRI を撮影し,Voxel-Based Morphometry (VBM) 解析とresting-statefunctional MRI (rs-fMRI)解析を施行し,それぞれ脳灰白質密度と機能的結合を比較した.プロボクサーにおいては,試合1 ヵ月前(Time1)から試合直前(Time2),試合後1 ヵ月(Time3)の時系列を追って縦断的動態を追った.その結果,健康被験者と比較して,ボクサー(Time1)は両側島前部が大きかった.また,BMI 変化率(%)に後帯状回サイズとの相関がTime2 とTime3 で観察された.機能的には,Time1 時点で,島部と楔前部(けつぜんぶ)の機能的結合がControl よりボクサーで低かった.島はあらゆる感覚情報の統合中枢であり,後帯状回・喫状部は環境モニタリングに関する中枢である.日頃の鍛錬によるトップアスリート特有の脳構造は島にあり,減量による構造変化は後帯状回に表象された.島と後帯状回の機能的結合性は,ボクサーで低かったことから,プロボクサー達は,それぞれの環境適応とは関係なく,運動感覚統合を発達させ減量を行っているものと示唆する.
「デサントスポーツ科学」 第40巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 | 荻野祐一, 川道拓東, 齋藤繁*1, 古井滋*2 |
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大学・機関名 | *1群馬大学大学院, *2帝京大学大学院 |
キーワード