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全研究総覧

耕作放棄地放牧における中家畜の脱柵防止技術の開発

はじめに

中山間地域の再生に向けた課題の1つとして、耕作放棄地の解消が挙げられる。耕作放棄地は農業生産活動の低下した結果であるが、同時に、野生鳥獣による農作物被害の温床にもなっており、当該地域における農業生産活動の低下を助長する要因にもなっている。
耕作放棄地の解消には、人力による刈り払いが一般的に実施されているが、当該地域の多くでは高齢化も進んでおり、人力による耕作放棄地の解消は困難である。そこで、家畜を用いた耕作放棄地の解消が提案されている。簡易な耕作放棄地放牧の資材として、電気柵が広く利用されている。電気柵は、通電している電線に家畜の通電しやすい場所が接触し、感電することで、その線を学習させる「心理柵」である。また電気柵は、単管パイプや垂木を用いた物理柵とは異なり、設置作業の容易さだけではなく、資材コストも安いことから広く利用されている。しかし、多くの実施者が家畜の脱柵を経験していることが中国地方で報告されている。今後、耕作放棄地解消のためには、脱柵を防止する技術が不可欠である。
本研究では、はじめに長野県内で実施されている耕作放棄地放牧を整理し、次いで、電気柵を早期に学習させる装置を開発する。

方法(調査地)

・長野県内における耕作放棄地等への放牧実績
県下、各地方事務所農政課に対して、耕作放棄地放牧に関するアンケート調査を実施した。調査項目は、耕作放棄地での放牧実施の有無、放牧面積、放牧している家畜種とした。
・電気柵早期学習装置の開発
はじめに、市販の電気柵(ガラガー社製)を4m間隔で設置した支柱に引っかけ、実験用の4段張り(15cm間隔)の電気柵(全長20m)を設置した。そして、電気柵の存在や感電防止を知らせる注意板をベースとなる学習板に見立て、設置した最上部の電線にかけた。さらに、開発する学習板の最大重量を把握するため、この学習板に粘土を10gずつ付け足し、学習板を取り付けた電線直下の電線との距離を測定した。実験は、学習板が当該の電線に触れるまで続けた。
また、放牧家畜の脱柵防止を図るためには、電気柵接近時に学習板への接触を促す必要がある。そのためには、学習板に対する放牧家畜の興味が継続し続けることが重要である。そこで、背景を緑色の状態にした実験パドックを設営し、そこに4色(ステンレス色、白色、赤色、透明)の正方形(30cm×30cm)の板を等間隔に並べ、各色板に対するヒツジの探査行動を調べた。実験には4頭のヒツジを用い、1頭につき10分とし、各色板への接触回数と摂食順序を記録した。なお、色板選択における左右偏向性が生じないようにするため、各色板の場所は、実験の都度、変更した。

結果と考察

・長野県内における耕作放棄地等への放牧実績
県内における耕作放棄地等における放牧実績を調べたところ、佐久地域が3.1ha、上小地域が2.0ha、上伊那地域が3.5ha、下伊那地域が7.0ha、木曽地域が13.0ha、北信地域が3.0haとなった。放牧畜主は多様で、黒毛和種繁殖牛、ヒツジ、ヤギ、ブタだった。
・電気柵早期学習装置の開発
学習板が直下の電線に触れない最大自重は、学習版の大きさが大(24.8cm×12.0cm、69g)の場合、最大自重は149gとなった。そして、学習版の大きさが小(24.8cm×6.0cm、40g)の場合の最大自重は370gであった。以上のことから、装置の大きさを小にすることによって、通電性の高い金属板でも、装置を開発できることが明らかとなった。
次いで、学習板にヒツジがより強い興味を持ち続ける色について検討した結果、供試したヒツジはステンレス色に3.3回/頭、白色に0.8回/頭、赤色と透明にそれぞれ0.3回/頭であり、ステンレス色への選択性が有意に高かった(P<0.05)。

以上のことから、電気柵を早期に学習する板は、24.8cm×6.0cmの大きさのステンレス色の金属板を基材に使用することが適当だと考えられた。

今後の方針と計画

ヒツジを用いた耕作放棄地放牧が実現できる場所を23年度に紹介してもらい、そこで実証試験を行いたい。

研究者プロフィール

竹田 謙一
教員氏名 竹田 謙一
所属分野 農学部 食料生産科学科 動物資源生産学
所属学会 日本草地学会、国際応用動物行動学会、日本畜産学会、日本動物行動学会、日本家畜管理学会、野生動物医学会、応用動物行動学会
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