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全研究総覧

中山間地域の歴史・現状と活性化の方向 ―社会学的視点と歴史学的視点より―

はじめに

今日、中山間地域は高齢化・過疎化も進み、いわゆる「限界集落」も数多く生まれてきている。本研究では、中山間地域の活性化の方途を探るために、文化、特に宗教面で山間地域がこれまで持っていた役割を明確化すると共に、中山間地域の社会的実情と課題を調査に基づき明らかにし、地域再生の可能性について検討する。

方法(調査地)

(1)中山間地域の地域社会の実情を調査するために、村山と辻は長野県下伊那郡大鹿村、長野県上伊那郡中川村の調査を社会学的視点から実施した。大鹿村は村の高齢化率が50%を超えた過疎化・高齢化の村である。中川村は1970年代までは人口減少を経験したが、その後人口規模を維持している農村地域である。いずれの村も中山間地域に属し、さらに「日本で最も美しい村」連合に加わっており、いわゆる開発手法を用いずに地域の固有資源を活かすことによる地域活性化を目指している村である。2010年度においては、地域社会の実情と地域づくりの実践について聞き取り調査を実施すると共に、大鹿村の2集落において社会ネットワークの調査を実施した。
 (2)さらに、中山間地域の振興を図るための手法として、食による地域づくりについて学習するためにB-1グランプリ主催団体事務局長の俵慎一氏を招いて講演会を実施するとともに、先進地域である青森県八戸市を実地調査した。また、中山間地域の地域振興の拠点として直売所を明確に位置づけるために、2010年度の信州直売所学校の開催を一つの機縁として直売所シンポジウムを実施した。
 (3)中山間地域の文化史的研究として、笹本は飯山市小菅の山岳信仰、穂高神社信仰、善光寺信仰等についての調査を実施した。
 (4)この他に、副次的主題として、村山は長野県山間景勝地の観光と資源開発の葛藤・相克の原初状態をさぐるために、大正期の梓川水資源開発について、行政文書をもとにした研究を実施した。

結果と考察

(1)2010年度に行った調査の結果、以下のようなことが判明した。大鹿村および中川村の調査においては、医療・高齢者福祉については現状では住民の満足を得られる水準にあるが、安定して続く保証はなく、人員面で今後の安定した維持が課題となっている。公共交通体系については、両村とも過疎地域の路線維持については大きな課題に直面しているが、中川村が独自に作り上げた村営巡回バスのシステムが成果を上げている。地域振興については、2つの村とも美しい村を軸として独自の取り組みを行っているが、Iターン人材の参加と活用が重要な鍵を握っていること、また、地域の文化資源は観光振興面では直接的効果は不明であるが、地域定住を進めるためには有効ではないかと考えられる。また、両村とも農業が基幹産業となっているが、ブランド化への取り組みなどは十分とはいえず、農業生産物の付加価値を上げるために工夫の余地が残されている。
 (2)2010年度の調査等において取り上げた諸事例を検討すると、「食」による地域づくりは地域振興および地域のブランド化を図るための入り口としては有効であるように判断できる。特に、第一次産業を基幹産業とする中山間地域においては「食」を基軸において六次産業化を図ることが一般的には有効であるように思う。直売所はそのための中心的施設として重要な位置を占めており、施設整備を図るとともに、高度に活用するための人材を育成する必要がある。さらに、直売所を巡るシンポジウムで指摘されたのは、災害時に直売所が避難所としての機能を果たすと共に、食料等をストックする機能を有するという事実であった。
 (3)中山間地の文化史的研究および山岳景勝地における水資源開発については、この数年来、継続して調査・研究を続けているテーマであり、今年度は善光寺信仰、穂高神社の信仰、大正期の梓川源流開発について、成果をまとめることができた。

今後の方針と計画

2010年度以降も、2011年度と同様に、(1)大鹿村および中川村の実態調査、(2)中山間地域の地域ブランディングの手法についての研究、(3)中山間地域の文化史、(4)景勝地域における水利開発、この4つの軸に沿って調査研究を進めていく。
 大鹿村・中川村の調査では、2011年度には郵送法による大規模な調査票調査を実施する予定である。この両村は三六災害で大きな被害を受け大規模な集落移転を経験したが、2011年度の調査では、栄村の被災を視野に入れながら、山間部の宿命としての災害と災害への社会的耐性という新しい視点を導入して調査を実施したいと考えている。

成果

*論文,研究ノート
村山研一「地域価値の創造を進めてゆくための視点と組織について」『地域ブランド研究』第6号、pp.1-13、2011
村山研一「梓川の水資源開発と発電用水利権――大正期の上高地ダム建設問題――」『信州大学人文学部・人文科学論集/人間情報学科編』第45号、pp.109-133、2011
村山研一「上高地のダム建設計画」『信州大学山岳科学総合研究所ニュースレター』第21号、pp.2-3、2010
笹本正治「穂高神社の信仰」『山岳科学総合研究所ニュースレター』第21号、pp.4-5、2010
笹本正治「人文科学から見た日韓両国の山岳研究」『山岳科学総合研究所ニュースレター』第25号、p.3、2011
*書籍、報告書
笹本正治編著『善光寺の中世』高志書院、2010年7月15日(本書では、笹本は「中世末から近世初頭の善光寺」「寛文絵図からみた善光寺信仰の世界観」「善光寺と差別」の合計68頁を執筆)
窪田順平、奥宮清八、笹本正治、中村寛志、須澤博一『山・ひと・自然―厳しい自然を豊かに生きる―』信州大学山岳科学総合研究所、2010年9月1日(本書では、「信仰から見た山と人間のかかわり」の20頁分を執筆)
 村山研一、辻竜平編著『中山間地域と村づくり 第1分冊:大鹿村』信州大学人文学部社会学研究室、59p.、2011年
 村山研一、辻竜平編著『中山間地域と村づくり 第2分冊:中川村』信州大学人文学部社会学研究室、73p.、2011年

*シンポジウム、研究報告会
村山研一「上高地とダム建設問題」(講演)第8回上高地談話会、2010年5月22日
村山研一「梓川上流の発電用水利権と上高地の開発」(研究報告)2010年度山岳科学総合研究所研究報告会(研究報告)、2011年2月26日
 辻竜平、村山研一「山村社会のネットワーク構造」(研究報告)第51回数理社会学会、2011年3月9日
村山研一「地域連携の拠点としての直売所」(シンポジウム・コーディネーター)地域ブランド研究会2011年研究大会シンポジウム・信州の叡智が集い語る「直売所の可能性」

研究者プロフィール

村山 研一
教員氏名 村山 研一
所属分野 人文学部 人間情報学科 行動科学
所属学会 日本社会学会、日本村落研究学会
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笹本 正治
教員氏名 笹本 正治
所属分野 人文学部 人間情報学科 地域文化変動論
所属学会 信大史学会、史学会、日本史研究会、地方史研究協議会、信濃史学会、日本自然災害学会、山梨郷土研究会、武田氏研究会、中世史研究会、長野県民俗の会、歴史地震研究会、古鐘研究会、出土銭貨研究会、日本民俗学会
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辻 竜平
教員氏名 辻 竜平
所属分野 人文学部
所属学会 数理社会学会、国際社会ネットワーク分析学会、アメリカ社会学会、日本社会学会、日本社会心理学会、社会調査協会
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