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全研究総覧

里山における菌根性きのこ類の資源探索と利用に関する研究 【地域】 伊那市、豊丘村など

はじめに

中山間地の特用林産物として戦後に発展したきのこ栽培産業は,過去20年あまりの間に量産化・効率化が急速に進んだ結果,ビン栽培・袋栽培技術を中心とした大型施設生産が主体となり,中山間地の産業としてはむしろ成立しにくい状況となってきた.今日栽培されているそれらきのこ類は,シイタケ,エノキタケ,ブナシメジをはじめとする木材腐朽性の種が殆どである.一方,マツタケやホンシメジに代表される菌根性きのこ類は,ビン栽培等の既知の栽培技術が殆ど応用できず,今日でも山林で自然発生する野生子実体の収穫にほぼ100%依存している状況である.すなわち,山林という場の必然性を踏まえたきのこの産業を考えた場合,菌根性きのこの生産がその主体となりうる.したがって,中山間地の山林資源をより有効に活用すべく,菌根性きのこ類の生産量(収穫量)を安定・増加させ,かつそれら収穫物の付加価値をいかに高めるべきかといった視点から具体的な方策を講ずることが考えられる.幸い,伊那谷はマツタケ生産が今日でも盛んであり,菌根性きのこ類の潜在的資源が豊富であると推測される.本研究では,マツタケをはじめとする菌根性きのこ類について,それらの生産性を高めるための林地管理技術についての情報共有化,潜在的に大きな可能性を秘めながら収穫・利用の限られているきのこ類の情報開拓,菌根性きのこ類の販路開拓・利用の拡大のための基礎的知見の集約を進めることを主な目的とする.

方法(調査地)

事例研究を効果的に進める観点から,文献検索ならびに現地調査を行った.現地調査では,地元関係者からの聞き取り調査と,現地でのきのこ類の発生生態調査を行った.きのこ類の発生生態調査では,現地の代表的な森林植生下で,夏〜秋季にかけて,不定期に子実体発生状況を記録し,産業的価値が見込まれる分類群について写真撮影するとともに標本として収集した.収集試料については,可能な限り常法により培養株を確立するとともに,乾燥標本として保存し,後日,種同定を行った.

結果と考察

(1)現地での聞き取り調査その1:平成22年6月22日の現地検討会
 本プロジェクトの中心的なモデルとなっている下栗地域では,中央構造線の東側に位置する地質母岩の影響もあってマツタケが殆ど発生せず,かつシイタケ等のきのこ栽培も必ずしも盛んではない(特産品と言える状況ではない)ことから,きのこ産業の観点からは事例研究として必ずしも興味深い地域とは言えないことが明らかになった.
(2)現地での聞き取り調査その2:平成22年10月
 上記(1)の結果を踏まえ,マツタケの収穫・生産の盛んな地域である,伊那谷中部の伊那山地山麓に位置する豊丘村,喬木村,松川町,中川村等の地域を事例研究の候補地とし,さらに地勢等を踏まえながらより具体的な研究を進める方向性を模索した.これら市町村等でのマツタケ関係者らを通じての聞き取り調査(JA駒ヶ根東伊那,豊丘村のマツタケ直売所,ほか)により,今秋の収穫量は記録的でピーク時に値崩れして出荷も滞るほどであることがわかった.豊丘村のある直売所1件だけでもトン超える取扱量(収穫物の入荷量)があるなど,この地域だけでも推定で2〜30トンに達する収穫(市場末端価格で最大16〜24億円と換算)があったと推定される.
(3)きのこ類の発生生態調査
 平成22年7〜11月にかけて,のべ10回程度の調査を行った.中川村や松川町でマツタケ,ホンシメジ等の子実体を収集し菌株を確立するとともに,アンズタケ,バカマツタケ,クロラッパタケ,キタマゴタケなど,地元での食用利用は殆ど見られないが,世界的にも高価な食材となりうる菌根性きのこの発生を複数の林地で確認した.

今後の方針と計画

得られたデータを地元関係者・住民と共有すべく,会合の機会を作る.また,収集したきのこ類については,遺伝子分析などを行い資源の基礎科学的知見を盤石にするとともに,新たな利用法(食用利用)の開拓や林地での生産技術についての可能性について試験研究を進める.生業全体の中でマツタケ生産にある程度比重を置いたとしても,年により豊凶の変動が激しいこともあり,他の季節に別の収入源を確保しなければ安定的に年間所得を得ることはきわめて難しいと考えられる.このため,野菜栽培,果樹栽培,炭焼き,山菜収穫,工芸品の制作など,複数の仕事を年間サイクルとして行い,その中にいかにうまく菌根性きのこの生産・収穫を組み込むかが現実的であると思われる.従って,それらの仕事に関わる研究事例等を交えての総合的な検討を行う場あるいは機会を設ける必要があると考えられる.

成果

学会発表,1件
山田明義・遠藤直樹,アンズタケ目の菌根合成- 菌根の形態学的および生理学的特徴 -,日本森林学会,2011年3月

研究者プロフィール

山田 明義
教員氏名 山田 明義
所属分野 農学部 応用生命科学科 生物資源化学
兼担研究科・学部 大学院総合工学系研究科
所属学会 日本菌学会、アメリカ菌学会、菌根研究会、日本きのこ学会、日本生態学会、日本森林学会
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