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全研究総覧

里山における木質資源の特性評価 【地域】 構内など

はじめに

中山間地域における居住農耕域に隣接する里山の樹木について,獣害防止や収入源として活用するためには,木質資源の有効利用が不可欠である。そこで,本研究では,里山に生育する樹種の木質資源としての特性を把握し,有効利用に資する事,環境変動下での成長や材質の予測を目的とした。H22年度は以下の課題を挙げて研究を行った。
1)代表的広葉樹種の肥大成長特性の把握
2)代表的針葉樹種の環境応答解析及び有効成分含有量調査
3)伝統的利用における樹種特性(主として含水率)調査

方法(調査地)

1)代表的広葉樹種の肥大成長特性の把握(構内ステーション)
コナラ,ハリエンジュのフェノロジー,水分通道,肥大成長の季節的関係性を連続的に観測した。
2)代表的針葉樹種の環境応答解析及び有効成分含有量調査(西駒,構内ステーション)
 異なる標高(770m〜1650m)に生育するカラマツを対象に,年輪幅や密度と気候要素との関係解析を行った。
 カラマツ心材に特異的に含まれる多糖類であるアラビノガラクタンについて,その含有量および非破壊測定法について調査を行った。
3)伝統的利用における樹種特性(主として含水率)調査(手良,構内ステーション)
 燃料利用(薪材)および建築材として利用する上で重要な要素である含水率について検討を行っている。アカマツを対象として,冬から春にかけての生体内および伐採丸太の含水率調査を行った。

結果と考察

1)広葉樹の肥大成長特性の把握と肥大成長制限要因の解明(構内,西駒ステーション)
春先には道管形成が先行して進むこと,道管の完成が開葉に関わっている可能性が高いこと,孔圏から孔圏外への移行には葉の成熟が関わっている可能性が高いことを明らかにした。
2)代表的針葉樹種の環境応答解析及び有効成分含有量調査
 異なる標高(770m〜1650m)に生育するカラマツを対象に,年輪幅や密度と気候要素との関係解析を行った。その結果,低い標高では,7月の日照と気温が年輪幅に負に寄与していること,高い標高では当年夏期の気温,降水,日照は制限要因にはなっていないことが明らかになった。今後,スギやヒノキなどの主要造林樹種についての調査を行う予定である。
 カラマツ心材アラビノガラクタンの含有量は,0.5〜4.0%程度であり,遺伝的な系統差が認められた。また,近赤外分光法による非破壊測定法の確立を行った。将来的なバイオエタノール原料や健康食品への応用が期待される。
3)伝統的利用における樹種特性調査
 アカマツを対象として,冬から春にかけての生体内および伐採丸太の含水率調査を行った。その結果,生体内の心材および晩材含水率は季節に関係なくほぼ一定であることがわかった。伐採丸太辺材含水率は,冬から夏にかけてわずかに減少するが,100%以上であった。伐採丸太への青変の出現は,伐採時期によらず6月上旬まではかくにんされなかった。7月上旬には丸太表面認められた。8月上旬にキクイムシの穿孔がみとめられ,同時に濃く広範囲な青変が確認された。従って,製材品としての利用を目的とする場合には,伝統的な施業方法としての厳冬期だけでなく,6月までは伐採が可能であること。8月上旬のキクイムシの穿孔以前に製材・乾燥の必要性があることが確認された。薪材として利用する場合には,伐採時期はいつでもよく,従来言われているような冬期の伐採にこだわる必要性はないことが明らかになった。現在,針葉樹(カラマツ,ヒノキ),広葉樹(コナラ,クリ,ハリエンジュ,サクラ)について含水率変化を調査中である。
 建築や農耕具としての伝統的利用調査には着手していない。

今後の方針と計画

代表的樹種の肥大成長特性の把握について,新規樹種として,コナラ,ケヤキ,クヌギ,ヒノキ,スギを対象とし,年輪年代学手手法を適用して,気候変動下での材質や成長の環境応答特性を明らかにする。
 伝統的利用における樹種特性調査として,燃料利用を効率よく行うための含水率季節変動調査を継続して行う。また,建築,用具利用としての樹種特性を明らかにするための予備調査を行う。

成果

学会発表
Kayo Kudo, Yoshihiro Hosoo, Koh Yasue:Relationship between intra-annual changes in tree-ring structure and leaf phenology of ring-porous species (Quercus serrata and Robinia pseudacacia). WorldDendro 2010 The 8th International Conference on Dendrochronology, Abstracts: 337(2010)
祇園紘一郎,古賀信也、内海泰弘,伊藤万理耶,安江恒(2010)異なる環境傾度に生育するカラマツ造林木の年輪指標と気候要素との関係.2010年度「樹木年輪」研究会発表要旨集:8(2010)
工藤佳世,細尾佳宏,白井瑛里子,中堀謙二,安江恒:落葉性広葉樹環孔材コナラにおける孔圏道管形成と葉のフェノロジーの連動性.第61回日本木材学会大会講演要旨集(CD-ROM):A18-03-1630(2011)
和田鉄平,細尾佳宏,安江恒:異なる標高に生育する信州カラマツの葉のフェノロジーおよび形成層活動期間.第61回日本木材学会大会講演要旨集(CD-ROM):A19-P-AM05(2010)

研究者プロフィール

安江 恒
教員氏名 安江 恒
所属分野 農学部 森林科学科 森林生産利用学
兼担研究科・学部 大学院総合工学系研究科
所属学会 IAWA(International Associaton of Wood Anatomist) 、Tree-Ring Society、IUFRO、日本木材学会、日本林学会
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