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全研究総覧

中山間地域における森林資源の有効利用システムの構築 【地域】 伊那市 西春近

はじめに

図1 荒廃したカラマツ林図1 荒廃したカラマツ林

森林の公益的機能の維持・増進のため間伐の推進は重要課題であるが,深刻な過疎化・高齢化が進行する中山間地域では適切な管理がおこなわれず,間伐手遅れ林分が急増している(図1)。木材には様々な有用成分が含まれており,これらを有効に活用できれば食品や化粧品など多くの用途への利用が期待できる。
近年は食生活の欧米化とともにアレルギー疾患や肥満等が増大し大きな社会問題となっている。国民の健康への関心は高く機能性食品の売上が増加傾向にある。そこで本研究では,潜在的な利用可能性をもつ森林バイオマス資源から機能性成分を抽出し,生活習慣病を予防する独自の高付加価値製品を開発することで,中山間地域の産業活性化を図ることを目的とした。また,木質資源からの有用成分のデータベース化を図り,地域資源の見直しに努める。本研究では,長野県の代表的造林樹種であるカラマツのアラビノガラクタンと,荒廃林に繁茂するクマザサのキシログルカンに着目し,両者の抗アレルギー作用について検討した。

方法(調査地)

図2 クマザサ図2 クマザサ

森林総合研究所林木育種センター長野増殖保存園(長野県小諸市)に植栽されたニホンカラマツを使用した。カラマツ心材は水抽出した後,エタノール沈殿法によりアラビノガラクタン画分を回収した。クマザサは,信州大学農学部キャンパスで採取し,フードプロセッサーで粉末化した。クマザサ粉末は活性炭含有の水で抽出した後,エタノール沈殿法によりキシログルカン画分を回収した。糖含量はフェノール硫酸法を用いて測定した。
抗アレルギー作用は,卵白アレルギーモデルマウスを用いて検討した。BALB/cマウスに卵白主要アレルゲンであるオボアルブミン(OVA)を1週間の間隔をあけて2回腹腔内投与した後,腸管パイエル板細胞を採取した。カラマツ由来アラビノガラクタンおよびクマザサ由来キシログルカン100-500 g/mlとともに5日間培養した後,培養上清の抗体(IgE,IgA)量およびサイトカイン(IL-4,IL-10)量をELISA法で定量し,抗アレルギー作用を評価した。

結果と考察

カラマツ心材からのアラビノガラクタンの収率を測定した。得られた抽出液の糖含量をフェノール硫酸法で測定したところ,アラビノガラクタンの収率は4.32%であった。一方,クマザサからのキシログルカンの収率は4.42%であった。クマザサは季節の変動によりキシログルカン含量が異なることが推測されることから,季節ごとの詳細なデータを今後進めていく必要がある。
次に,アラビノガラクタン,キシログルカンの抗アレルギー性について卵白アレルギーモデルマウスを用いて検討した。その結果,アラビノガラクタン,キシログルカンともに,IgE抗体およびIL-4の産生が効果的に抑制することを見い出した(図3)。食物アレルギーや花粉症を代表とするⅠ型アレルギー性疾患の発症には, IL-4,IL-5,IL-13などのTh2型サイトカインが深く関与しており,これらのサイトカインがIgE抗体産生を促進する。IgE抗体はアレルギー症状であるくしゃみや発疹などを引き起こすヒスタミン等の化学物質の放出を誘導することから,IgEやIL-4の産生量を抑制できればアレルギー症状を軽減あるいはアレルギー発症を予防できると考えられる。それゆえ今回の結果から,アラビノガラクタン,キシログルカンは,優れた抗アレルギー性を有することが示唆された。
IgA抗体は,腸管に侵入してくるアレルギー原因物質(アレルゲン)と結合し,体内にアレルゲンが入るのを防ぐ役割を果たすことから,アレルギーの発症を抑えることが知られている。また,免疫細胞には制御性T細胞という免疫寛容を誘導しアレルギー反応を誘発させない働きをもつ細胞群が存在する。この制御性T細胞はIL-10産生によって誘導されることが知られている。そこで,アラビノガラクタン,キシログルカンによるIgA抗体およびIL-10の産生促進作用について検討したところ,両者とも効果的にIgA抗体およびIL-10の産生を増加させることが明らかになった。すなわち,アラビノガラクタン,キシログルカンは,腸管内での免疫応答を制御することで,アレルギー反応を抑制できる可能性が示唆された。

今後の方針と計画

長野県内の間伐手遅れ林の実態調査,および里山に生息する樹種の材質特性評価が連携教員によっておこなわれている。これらの研究成果を収集し,中山間地・里山に埋もれている潜在的資源の発掘を推進していく。
今後はアラビノガラクタンおよびキシログルカンの抗アレルギー作用に関する安全性・有効性のエビデンス(科学的根拠)を蓄積していくとともに,中山間地域における有用な木質資源のデータベース化を図る。また,伊那市長谷村をモデル地区とした間伐推進のコスト試算をおこない,本システムの採算性や経済効果を検証する。本研究を通して,森林地区を新たなビジネスの場として開拓し,地域経済の活性化をめざす。

成果

特になし

研究者プロフィール

片山 茂
教員氏名 片山 茂
所属分野 農学部 応用生命科学科 生物機能化学
所属学会 日本農芸化学会 、日本栄養食糧学会
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