信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 暑熱環境下の運動時における塩味閾値の変化を指標とした熱中症予防のための基礎的・実践的研究

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.37 Vol.37

 要旨

 暑熱環境下の運動時における塩味の閾値変化を検討し,塩味の味覚閾値を使用した熱中症予防のための新しい指針について考案することを目的とした.対象者は,健康な若年男性12名とした.本研究は,室内における暑熱環境下の安静滞在時および運動時の塩味閾値の変化を検証する基礎的な実験(n=6)と実際のスポーツ現場におけるフィールド調査(n=6)を行った.室内実験では,気温25℃・相対湿度50%と気温35℃・相対湿度50%の環境下で30分間の座位安静および自転車駆動(予測最大心拍数の50%)を行った.フィールド調査では1試合10分間のバスケットボールの試合を2回行った.測定項目は,塩味閾値,体重,発汗量,尿中電解質,主観的な塩分の欲求指数(以後,塩味欲求指数と示す)等とし,実験および調査前後の2回測定した.
 室内実験の25℃環境下の運動と35℃環境下の運動およびフィールド調査では,運動後の塩味閾値および体重が運動前に比して有意に低下した(p<0.05).フィールド調査の運動後の塩味欲求指数は顕著に高い値を示した.室内実験では,25℃環境下の運動後の尿中Mg・Caが運動前に比して有意に低下したものの,塩分を示すNaやClの大きな変化はみられなかった.一方,フィールド調査の運動後の尿中Na,尿中Clおよび尿中Caは運動前に比して有意な低値を示した(p<0.05).フィールド調査では,室内実験よりも運動量が多く,運動強度が高いため,発汗量は顕著に増加した.フィールド調査の運動後の尿中Na排泄量の低下は,発汗量の増加に伴う汗中Na排泄量の増加による影響が考えられた.これらから,暑熱環境下の運動時における塩味閾値の低下や塩分欲求指数の増加は,汗中や尿中に排泄されるNaやCl等の電解質指標の変化と必ずしも同じ速さで生じるものではなく,それらが観察される以前に起こる可能性が推察された.塩味閾値の変化の測定は,運動実施者が自ら体内の体液バランスの状況を客観的に把握することが可能な指標であり,暑熱環境下の運動時の安全管理および体調管理のため有用な示唆になる可能性は高いことが本研究によって示された.

「デサントスポーツ科学」第37巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 髙木祐介*1, 関和俊*2, 山本正嘉*3, 北村裕美*2, 小野寺昇*4
大学・機関名 *1 奈良教育大学, *2 流通科学大学, *3 鹿屋体育大学, *4 川崎医療福祉大学

キーワード

暑熱運動塩味閾値バスケットボール熱中症