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PDF 内分泌機能からみた高血圧者の身体運動

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.3 Vol.3

 本態性高血圧症は,運動療法の対象とは考えられているが,その効果については,必ずしも意見の一致をみていない.
 HansonとWilliam 1)および片岡2)らは,高血圧を示す者が身体トレーニングをすることによって血圧が低下したことを報告しているが,Hanson 3)らは,変化しなかったと報告している.
 また,鈴木ら4)は,高血圧症ラット(SHRラット)に強制運動を負荷した場合には血圧が上昇するが,自由に運動させた場合には低下したことを報告している.
 肥満した高血圧症患者では,身体運動や食事療法によって肥満が軽減すると,高血圧も改善することは衆知のことである.
 また,橋本らの動物実験にもみられるように,交感神経機能を高進させるような条件下では,運動負荷の有無を問わず,血圧が上昇することも多くの知見5,6)から明らかである. 
 本態性高血圧は,多くの因子から成り,それが本態性高血圧と呼ばれる所以である.
 また,本症は,運動療法の対象とは考えられているが,確定的な根拠があるわけではなく,長期的な身体トレーニングによって高血圧の改善に効果があったとする例では,肥満の軽減や末梢血行動態の変化,および気分転換と俗称される交感神経系の関与などが効果を示し,高血圧の改善をもたらしたものと思われる.
 身体運動が他の合併症,たとえば肥満症などの対象と考えられていても,本態性高血圧症そのものの禁忌とはならないという確証はない.
 著者ら7,8)は,運動負荷時のレニン-アンギオテンシン-アルドステロン(RAA)系の動態を観察し,とくに高温環境下では,体液量保持や血圧調節に対するRAA系関与の重要性が示唆されたことから,血圧調節などに関与する内分泌機能に異常をきたしている本態性高血圧症患者に運動を実施する場合には,とくにこの内分泌機能の面からの運動負荷の影響を吟味する必要のあることが示された.
 本研究では,WHOの基準9)により,高血圧症と診断された中高年者5名を実験群およびほぼ同年齢,同体格の者5名を対照群として,20分間のトレッドミル走を負荷し,負荷前,負荷直後,30分後に採血,採尿をし,とくに内分泌機能の面から,高血圧者の運動負荷の影響を観察した.

「デサントスポーツ科学」第3巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 塩田正俊*1,鈴木政登*1,井川幸雄*1,小野幹夫*2
大学・機関名 *1 東京慈恵会医科大学,*2 東京女子医科大学

キーワード

本態性高血圧症運動療法血液・尿検査昇圧物質ホルモンの動態血圧調節