信州大学 繊維学部技術データベース

Research Seeds

PDF 各種スポーツ実施者の摂取栄養の質的・量的バランスの検討

【大分類:7. デサントスポーツ科学 小分類:7.9 Vol.9

 要旨

 スポーツ実施者の栄養については,従来かなり多くの研究が行われているが,各種目のスポーツの選手についてみると,必ずしも適切な給食が行われているとは思われない.本研究は各種スポーツ競技実施者の個人および集団の栄養と給食に際して参考となる資料を得ることを目的として実施した.内容は次の3部よりなる.
 1.スポーツ選手の集団給食と栄養管理について
 被検者グループとして,比較的栄養と給食管理が行き届いていると考えられる自衛隊体育学校の特別体育課程学生のうち,陸上競技,射撃,近代五種,レスリング,重量挙,ボクシングおよび水泳の選手を選んだ.トレーニング期における彼らの食事は質的にも量的にも,よく管理された献立によって支給されているにも拘わらず,トレーニングにより消費したエネルギーが喫食した摂取エネルギーを下回り,負のエネルギーバランスを示した.また,蛋白質摂取量は所要量を下回った.激しいトレーニングによる疲労と食欲減退,喫食時間の不足,自由盛り付けのため噌好の個人差などが原因と考えられ,トレーニング計画の再検討と給食計画とともに,選手に対する喫食指導をする必要があるのではないかと思われた.
 2.体重制スポーツ選手の急速減量時の栄養について
 数日間に体重の約10%前後の減量を実施したボクシングとレスリングの選手を対象として,栄養学的調査を実施した.減量期におけるエネルギー出納は,わずかに負の値を示したが,食事による体重減少はさほど大きくなく,大部分が摂水の減少と発汗による脱水がその大部分を占めている.減量期の摂取栄養素は蛋白質,脂肪,鉄などが少なく,水と窒素の出納は明らかな負の値を示した.回復期の食事に関しては概して問題は少ないが,個人差が著しい.長期的に健康と競技能力を維持するために,また可及的完全に速やかに体調を回復するために,バランスのとれた栄養摂取を心掛けるよう指導する必要がある.
 3.断眠,摂食,摂水制限下の激運動の生体影響
 陸上自衛隊レンジャー訓練隊員を被検者とし,正味3日と21時間(93時間)にわたり飲料水を平素の物食糧を基礎代謝量以下に制限し,睡眠を断って,山岳地帯で激しい筋運動を伴うレンジャー活動を連続して実施する実験を行った.体重と体水分量は有意に減少し,減少量は体重の約10%に達した.その80%は体水分の,20%は体脂肪の減少によるものであった.血築TGが減少し,BUN,NEFAが増加したことから,脂質代謝が高まり,蛋白の異化が冗進したことが推定される.平均心拍数から算出した推定エネルギー消費量は約8,000kcal/dayに達し,平均負荷運動量は最大酸素摂取量の34%と推定された.これらの結果から,本実験におけるレンジャー活動は人体機能の限界に近いものであると考えられ,脱水や疲労困臓による危険を予防するために,予備の飲料水と糧食を準備することが必須であると考えられた.

「デサントスポーツ科学」第9巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団
研究者名 万木良平*1, 小池五郎*2, 渡辺美智子*2, 向笠由美*2, 山崎省一*1, 近藤陽一*1, 桜間幸次*3, 松根洋右*3
大学・機関名 *1 防衛医科大学校, *2 女子栄養大学, *3 自衛隊体育学校

キーワード

スポーツ選手栄養管理給食計画