運動後低血圧（PEH）の成因については未だ不明な点が多いが，運動に伴う血漿量（PV）減少による静脈還流低下の関与が想定される．そこで本研究では，若い成人男性7名を被験者として以下の実験を行った．30分間の仰臥位安静の後，脚自転車エルゴメータ運動を，ほぼ60%予備心拍強度で1時間行い，ふたたび1時間の仰臥位安静を保った．プロトコールを通して水分摂取のないコントロール条件をまず行った．次に，水分摂取条件として，コントロール条件を行った際の運動終了時における体重減少に相当する量の水分を運動中に摂取させた．両プロトコール中を通して，心拍数（HR）ならびに平均動脈血圧（MAP）を連続的に測定した．また，運動前，運動終了直後，運動後30分と60分の計4回，右手指先よりヘマトクリットとヘモグロビン濃度測定のために採血し，運動前のPVに対する運動後の各時点でのPVの相対的変化量（ΔPV（%））を求めた．運動終了後60分間の仰臥位安静中，両条件ともに，心拍数は運動前よりも高いレベルを維持していたが，両条件間に有意差はなかった．コントロール条件でのMAPは運動前と比較して，運動終了約30分後から，ほぼ一貫した有意な低下が認められた．一方，水分摂取条件では運動前に対して，運動終了約15分後には有意な増加が認められ，その後は運動前と同じ水準を維持した．ΔPVはコントロール条件では，運動終了直後に減少（−17.1±2.2%）したが，30分後にはすでに回復した．水分摂取条件におけるΔPVも，コントロール条件よりは有意に少なかったが運動終了直後には9.8±2.7%の減少を示した．また，コントロール条件と同様に30分後にはほぼ回復した．これらの結果より，PEHには運動に伴う血漿量低下が直接的には関与していないこと，また運動中に水分摂取を行うとPEHがほぼ消失することが明らかとなった．

「デサントスポーツ科学」第30巻/公益財団法人 石本記念 デサントスポーツ科学振興財団