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第48回日本医学教育学会大会

平成28年7月29日〜30日にかけて、大阪医科大学キャンパスで第48回日本医学教育学会大会が開催され、当センターからは3件の演題を発表致しました。いずれも当センターが取り組んでいる診療参加型臨床実習に関する報告です。

1.近隣に協力病院が少ない地方大学で診療参加型臨床実習を実現するための工夫

 ○多田剛、森淳一郎、清水郁夫、黒川由美、森田洋、中澤勇一

【目的】現在の教員や指導医にクリニカル・クラークシップの経験はない。また、本学の近隣に学生実習を受け入れられる病院は僅かしかない。このような状況で現行の臨床実習を診療参加型に移行させることは難しい。しかし、県内にはプライマリケアを学ぶのに適した病院は多くある。そこで、改革の第1歩として臨床実習の前半を学内で実習し、後半に中小地域病院を含む多くの診療チームに学生を一人ずつ配属させる臨床実習を開始したので報告する。

【方法】当初33病院と協定を結び、平成19年度より6年次生をこれらの病院に分散させて1コース4週間の選択制臨床実習を3コース実施した。平成27年度の5年次後期より既定の150コースから1つを選択する方法で1診療チームに1学生を配置する臨床実習を開始した。これに合わせて地域病院の医師も交えたワークショップで診療科ごとのアウトカムを決め、ポートフォリオを用いた評価を開始した。これらの説明のために各病院を3巡回し医師らに協力を求めた。地域病院での実習中には教員が出向いて学生の指導や指導医との懇談を行った。一部の学生のポートフォリオでの評価は実習した診療科に拘らず医学教育専任教員が行った。

【結果】運営に支障はない。学生に無記名で選択制臨床実習を指導医とのコミュニケーション、病棟実習、外来実習の満足度について4段階で評価してもらったところ、十分あるいは概ね十分と答えた回答率はそれぞれ99%、92%、72%といずれも高かった。また1コース4週間の臨床実習は地域病院からも好意的な意見が多く、協定病院数は36に増加した。また、医学教育専任教員が実習中の評価に加わることで、問題のある学生に早期から関わることが可能になった。

【まとめ】この改革で学生は以前よりも意欲的に勉強するようになっている。今後はポートフォリオによる形成的評価をさらに充実させて、この臨床実習の改革で学生を自己主導型学習に誘導したい。

2.診療参加型臨床実習の計画的評価を目指した「中間試験OSCE」の導入

 ○清水郁夫、黒川由美、森淳一郎、森田洋、中澤勇一、多田剛

【背景】本学の診療参加型臨床実習は、4年後期~5年前期に全科を実習する前半(38週)と、5年後期~6年前期の教育協力病院を中心に長期間実習する後半(36週)からなり、診療参加型臨床実習の評価の一環として開始時の共用試験OSCEと臨床実習終了後OSCEを実施している。しかしこれらの試験が求める能力には大きな差があることから、継続的な学習を促し、かつ診療参加度が高まる後半の実習を開始できる能力を担保するために、計画的な多面的評価の一部としてポートフォリオ等とともに「mid-term (中間試験) OSCE」を導入することにした。

【方法】本試験は前半の終了後である5年7月に実施することにした。 平成26年度に臨床実習の到達目標が策定されたことから、本試験ではその部分的な到達を測定することにした。異常身体所見の提示はシミュレータを用いることとした。

【結果】胸部診察と異常所見の解釈(異常聴診所見をもとに診断する)、検査手技の実施と解釈(心電図計をとりつけ、得た所見をもとに診断名を答える)、鑑別診断に基づいた特異的診察手技の実施(ある疾患が想定される患者に診断的診察手技を選び実施する)、プライマリケアの基本的診療 (写真を提示して診断を推測し、医療面接で聞くべき質問を答える)の4課題を設けた。まず試行試験を実施して内容等を調整した上で、本試験を平成27年7月に新カリキュラム初年度の5年次生(n=102)に実施した。平均得点率は 79.8%で、合否判定にはチェックリストと概略評価を併用したボーダーライン法を用い、全員が合格した。チェック項目を技能領域と認知領域に分類して検討したところ、両項目の相関係数は低く(R=0.303)、同時期に実施した総合筆記試験とは認知(R=0.445)、技能(R=0.269)と低~中等度の相関を示した。

【考察】本試験は筆記試験とは異なる能力を評価しており、計画的評価の一部としての有用性が示唆された。今後は評価の多面性と全体の整合性を考慮した改善を進める。

3.ブレンド型PBLは医学生の主体的学習姿勢に寄与するか?

 ○清水郁夫、中澤英之、佐藤吉彦、Karen Könings

【背景】我が国の医学教育ではPBLの導入に難渋してきた。その理由として、教員主導型教育の文化があるためにPBLに必要な自己調整型学習が未確立であることが挙げられる。この解決策として、e-ラーニングを併用したブレンド型PBL(bPBL)とすることで教員の権威の影響を低めて自己調整型学習を促し、主体的学習姿勢の確立に寄与できる可能性がある。

【方法】対象は信州大学医学部の平成27年度臨床実習で内科(2)または(4)をローテートした学生とした。10~11月に実習した学生にはPBLの説明、プレテスト・ポストテスト、フィードバックを教員が口頭ないし紙面で提供し、従来群とした。以後に実習した学生はこれらをオンライン学習支援システム上で行い、bPBL群とした。両群に質問紙を配布し、討議への参加、自己調整型学習、自己効力感、主体的参加、チューターの権威について5件法で質問した。さらにbPBL群にはe-ラーニング受容に関する項目(使いやすさ、有用性、学習への使用、e-ラーニングへの肯定感)を追加質問した。同意を得た学生について、質問紙の回答結果およびテスト成績を解析した。性別、診療科、事前知識(共用試験CBT成績)、自習時間を共変量とした。

【結果】従来群24名、bPBL群27名を対象とし、両群の背景に有意差はなかった。回答結果を共分散分析で解析したところ、主体的参加(p=0.029)と自己調整型学習(p=0.047)は有意にbPBL群で向上した。プレテストとポストテストの点数差も有意にbPBL群が向上した(p<0.001)。e-ラーニング受容について重回帰分析を行ったところ、事前知識は負に相関し(p<0.001)、自己調整型学習は正に相関した(p=0.014)。事前知識とe-ラーニング受容の各項目との関係は、有用性が負に相関した(p=0.018)。

考察】bPBLはチューターの権威に関係なく自己調整型学習をもたらした。特に成績下位層にとって、bPBLは有効な方略と考えられた。

また、本学学生サークルが行った取組が学生セッションで1件発表されました。

学生サークルによる、医療系学生のための病院前外傷診療ワークショップ

 ○熊谷壇(信州大学救命救急サークル「SALTs」)

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