信州大学医学部歯科口腔外科
Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine

第59回日本口腔科学会総会
(2005年4月21ー22日、徳島市)
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宿題報告:顎関節内障の進行に伴う顎関節構成組織の適応変化

○栗田 浩

 顎関節症、特に顎関節内障の進行とともに顎関節構成軟および硬組織に種々の形態変化が生じると考えられている。これら一連の変化の多くは円板転位により生じた障害に対する適応変化として出現し、顎関節機能回復に重要な役割を演じていると考えられる。われわれは、顎関節症患者の画像検査所見を詳細に検討することにより以下に述べる適応変化が生じていることを明らかにした。本報告では、その結果について顎関節機能の回復に関する考察を加え報告する。
【対象および方法】
 信州大学医学部附属病院歯科口腔外科顎関節外来を受診した顎関節症患者を対象に、臨床所見、顎関節の単純X線およびMR画像等のデータ集積を行い、その解析を行った。また、同意の得られた患者では治療長期経過後のリコール検査を行い、長期経過後の顎関節の変化を検討した。
【結 果】
(1)関節円板について
l 非復位性の転位円板の方が、復位性の転位円板より転位量が大きい(より前方に転位している)。
l 転位量が中等度であれば、円板が復位性か非復位性かは顎関節内側あるいは外側の転位量により左右される。つまり、内側あるいは外側の転位量が少なければ、円板転位は復位性である。
l 非復位性の転位円板の方が、復位性の転位円板より円板の変形は重度である。
l 円板転位量が大きくなるほど関節円板の変形は高度になる。
(2)下顎頭について
l 円板転位量が小さい場合閉口時の下顎頭は関節窩内で後方に偏位し、円板転位量が大きくなると下顎頭は関節窩の中心近くに位置するようになる。
l 円板転位が進むにつれ下顎頭の関節面の変形性骨変化が高頻度になる。
l 円板転位が進むにつれ、円板の付着部付近の下顎頭外側極の吸収性骨変化が出現する。
l 下顎頭関節面の骨変化は顎運動痛と、下顎頭外側極の吸収は顎関節部の圧痛と関連がある。
l 非復位性の円板転位を有する関節では下顎頭の長軸角は大きくなる。
l 円板転位が進むにつれ下顎頭(長径および短径)は小さくなる。
l 下顎頭の外側の吸収および下顎頭長径の短縮は、下顎頭関節面に見られる骨変化とは関連が見られなかった。
l 下顎頭外側極の吸収と、下顎頭長軸角および下顎頭長径の変化とは関連がある。つまり、円板転位により下顎頭外側極の吸収が生じると、結果として下顎頭長径は短くなり下顎頭長軸角は大きくなる。
(3)関節結節について
l 関節結節が低い関節の方が、高い関節より円板転位はおこりにくい。
l 顎関節内障が進むと関節結節の平坦化が出現する。
(4)顎関節内障長期経過と形態変化
l 顎関節内障治療後も関節円板の変形は進行する。
l 顎関節内障の臨床症状が改善すると、顎関節の重度かつ急速な骨変化も停止する。
l しかし非復位性の円板転移症例では、長期経過とともに下顎頭は縮小し、関節結節が平坦化する傾向がある。
【考察および結語】
 顎関節の内側および外側における円板転位量が少ない(円板の下顎頭の内側極および外側極での関節円板の弛緩が少ない)場合は円板転位は復位性であり、内側および外側ともに円板転位量が多くなると非復位性になる。
 非復位性の円板転位により開口障害/下顎頭の前方滑走障害(クローズドロック)が生じる。この状態で開口運動を行うことにより、1,転位した円板がさらに前方に押しやられる、2,転位した円板が変形する(変形が進む)、3,円板が前方に引っ張られることにより円板の下顎頭付着部である外側極付近の吸収性変化が出現し、下顎頭が小さくなる、4,下顎頭が小さくなることにより円板はさらに前方に転位する、5,関節結節が平坦化する、という一連の変化が進む。その結果、下顎頭の運動域が増大し、開口量の回復につながるものと思われた。また、顎関節の顕著な形態変化は臨床症状の軽快とともに停止またはスローダウンすると考えられた。

口腔外科手術におけるimmunonutritionの効果

○成川純之助、他

当院における電子メールを用いた病診連携システムの紹介と現状

○舩元照一、他

 これからの医療は「誰が見ても明らかな事実や第三者からの評価に基づいた質の高い医療(高度の医療サービス)を、患者さんへ無駄なく安全に供給する。さらにその実現に際しては経済的に妥当である」ことが要求されている。IT(Information Technology:情報技術)は医療の効率化を支援する手段として期待されているが、実際の医療現場へは十分な普及が進んでいないのが現状であろう。
 2002年6月より当科では医療現場へのIT普及の一端として、電子メールによる診療予約、診療相談を開始した。医院−病院間の連絡をこれまでの手紙やファックスなどに換えて電子メールで行うものである。電子メールを用いることにより患者情報の送受信が簡便かつ迅速に行えるとともに、患者さんの病態写真・画像検査所見などをデジタル画像として送受信することにより、患者情報の提供、診療相談、診療予約がスムーズに行えることが期待されている。本システム導入により、患者さんにとっては待ち時間の短縮、通院回数の削減、紹介医にとっては簡便に診療相談ができること、また、われわれ病院側では外来日の混雑の削減、診査の重複を減らせ検査の待ち時間を減らせる等の利点が挙げられる。いっぽう、欠点及び問題点としてデジタルカメラ等のハードの設備、患者のプライバシーの保護、メールのチェック漏れなどが挙げられる。
 本システム開始以来約2年が過ぎた。紹介メール数は2002年6月から2004年9月まで353通であり月平均12.6通であった。本報告では、このシステムの概要を紹介するとともに、現在までの本システムの運営状況、病診連携の内容を報告するとともに、浮かび上がってきた問題点やその対応策などを報告する。

上下顎骨に発生した骨髄炎を伴った骨Paget病の1例

○上原 忍、栗田 浩、中塚厚史、成川純之助、鎌田孝広、倉科憲治

Paget病は変形性骨炎ともよばれる原因不明の疾患で、1877年にPagetによりはじめて記載され、
骨Paget病と呼ばれるようになった。本疾患は全身のあらゆる骨に生じうるが、顎顔面に発生した
骨Paget病の報告は希であり、われわれは上下顎骨の骨髄炎を伴った骨Paget病を経験したので報告する。
[患者]女性 61歳(再々診時)
[初診]平成16年9月23日(再々診時)
[主訴]右上顎歯肉の腫脹
[現病歴]平成3年11月、左下臼歯部に疼痛と腫脹が出現し当科初診。慢性骨髄炎の診断の下に、11月6日
局所麻酔下に左下顎骨の腐骨除去を施行した。平成12年3月下旬に左下顎下縁部に腫脹が出現し、精査加療
のため4月13日当科に入院した。この時、両側下顎骨体部に骨様の膨隆を認め左右非対称で、左下顎下縁部
皮膚に瘻孔を認め排膿が見られた。左右の三叉神経第。枝領域に麻痺はなかった。口腔内では、両側下顎
臼歯部歯肉の瘻孔からの排膿と左上顎歯肉の発赤を認めた。血液血清生化学検査では異常値を認めなかった。
オルソパントモで上下顎骨に広範な綿花状の不透過像を認め、骨シンチでは上下顎骨に異常集積が見られた。
消炎療法を施行し全身麻酔下に全顎的に腐骨除去術を行った。この時点で骨Paget病を疑ったが診断は得ら
れなかった。その後、平成16年9月頃から右上顎歯肉に腫脹と疼痛がみられ排膿を認めたため9月23日当科
再々診となった。
[既往歴] 子宮筋腫
[家族歴]特記事項なし
[H16年の画像所見]オルソパントモで右上顎に綿花様の不透過像を認めた。全身単純X線写真で骨硬化像は見
}られなかった。
[処置]全身麻酔下に右上顎腐骨除去術および骨生検を行った。
[病理組織学的所見]不規則な骨破壊像と再生像を認めモザイク状の構造を示す再生骨が見られ、骨Paget病と
診断された。

麻酔下ラット歯肉細動脈生体顕微鏡観察標本の作製とその標本におけるプロスタグランジン(PG)の影響について
○中塚厚史、水野理介*、倉科憲治、大橋俊夫* (*信州大学医学部器官制御生理学教室)

クマ咬傷による下顎骨骨折の1例

○宮澤英樹、飯島 響*、峯村俊一*、倉科憲治(*飯田市立病院歯科口腔外科)

ツキノワグマは我が国に存在する数少ない大型獣であるが、襲撃され重篤な顔面外傷を受けたとの報告例は少ない。今回我々は、クマの咬傷により生じた下顎骨粉砕骨折を含む顔面多発外傷症例を治療する機会を得たので報告する。
患者:60歳、男性。
初診:2004年10月15日。
主訴:顔面出血。
家族歴:特記事項なし。
既往歴:憩室炎。
現病歴:2004年10月15日近山中へキノコ採りに出かけた際、クマに襲撃され顔面、頭部を咬まれた。激しく抵抗しクマを撃退。自力で下山し近病院を受診し、紹介にて当院へ緊急搬送された。
現症:全身所見;身長161cm、体重63Kg、血圧130/72mmHg、脈拍数76/min、意識は清明であった。
口腔外所見;頬部から頚部にかけ各々10cm、7cm、4cm、3cm程の鋭角的な断裂創があり、口腔内へ貫通、また、耳下腺下極、顎下腺の露出を認めた。左下顎骨はオトガイ孔から下顎角部まで粉砕解放骨折がみられ、頭頂部には15cm程の骨膜にいたる鋭角的な深い創、左前腕部に解放性骨折を認めた。
口腔内所見;口角部は裂け、頬粘膜部に貫通創を認めたがステノン管の断裂は生じていなかった。
画像所見;左側下顎角部から小臼歯部にかけて骨体部の粉砕骨折が認められた。
処置および経過:即時手術室に搬送し、全身麻酔下において、創部洗浄後、骨片の整復を行った。下顎骨は顎角からオトガイ孔前方部までいくつかの骨片に分かれていたため、チタンミニプレ−トおよびステンレスワイヤ−により可及的に固定を行った。一部小骨片は整復不可能であったため除去した。裂傷により貫通していた頬粘膜および口角の縫合、顔面、皮膚の各層縫合を行った。軟組織欠損はなく、創の完全閉鎖が可能であった。頭頂部裂傷、左側前腕部骨折に対しては形成外科医、整形外科医にてそれぞれ処置がなされた。その後、創部に感染、小骨片の腐骨化がみられ11月26日ミニプレ−ト、腐骨化した骨片の除去を行った。

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