信州大学医学部歯科口腔外科
Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine

第22回日本口腔腫瘍学会総会
(2004年1月22ー23日、金沢市)
研究状況のページに戻る
痴呆を有する口腔癌患者の3症例
○横地 恵、栗田 浩、中塚厚史、成川純之助、酒井洋徳、小林啓一、田中廣一、倉科憲治

 痴呆患者における悪性腫瘍の治療は、大変困難であるが、最近われわれは痴呆を有する高齢者の口腔癌患者を3例
経験したので報告した。
 症例1・患者:80歳男性。初診:平成14年8月27日。主訴:右顎下部の疼痛。既往歴:アルツハイマー型痴呆症
(HDS-R : 8)、高血圧症現症:右口底部に圧痛を伴う弾性硬の腫瘤を触知した。診断:右舌下腺癌(T2N0M0)処置お
よび経過:平成14年10月30日手術目的で入院するも、不穏が強く、入院加療が困難であった。外来で化学療法を継
続していたが平成15年9月急性心不全のため死亡。
 症例2・患者:74歳男性。初診:平成14年12月13日。主訴:左側下顎歯肉の腫脹。既往歴:重度痴呆症(HDS-R :
0) 。現症:左側下顎3〜6部頬側歯肉から頬粘膜に潰瘍を伴う腫瘤を認めた。診断:左側下顎歯肉扁平上皮癌
(T2N2cMx)。処置および経過:平成15年1月6日手術目的で入院するも徘徊等目立ち、入院加療困難であった。
外来で化学療法を行っていたが、5月入院中の精神病院にて他界。
 症例3・患者:74歳男性。初診:平成15年4月25日。主訴:両側顎下部の腫脹。既往歴:アルツハイマー型痴呆
症(HDSR:18)、高血圧症。現症:右口底部に分葉状の腫瘤を認めた。診断:右口底部扁平上皮癌(T2N2cM1)処置
および経過:両側頚部リンパ節や縦隔内リンパ節への転移を認めたため、放射線治療及び化学療法を施行。6月13日
退院し、退院後はUFTの内服を継続している。8月より腫瘍の増大傾向を認めているが、疼痛は自制内にコントロー
ルされており12月26日近病院に入院。
 以上の3症例を経験し、痴呆症を有する患者の悪性腫瘍の治療では、患者との意思の疎通が困難、疾患・診療に対
する理解が得られない、治療法の選択に制約がある、入院管理が困難、家族の治療への積極的協力が得にくい等の問
題点が明らかとなった。

下顎骨に発生した骨肉腫の1治験例 −化学療法を中心にー

○中塚厚史、小池剛史、小林啓一、栗田 浩、倉科憲治

 骨肉腫は、顎顔面領域の悪性腫瘍中約1.4%を占め希な腫瘍である。今回われわれは、下顎骨に発生した骨肉腫の症例を経験したので、化学療法を中心に報告した。
 【患者】39歳、女性。【主訴】左下大臼歯部の歯肉腫脹。【現病歴】左大臼歯の歯肉腫脹を認め、近歯科医院を受診し、精査目的に某病院口腔外科を紹介された。各種画像検査施行し、生検にて骨肉腫と診断され、当科での治療を希望され入院となった。【現症】身長167B、体重49Lで、栄養状態良好であった。口腔外では左顎下部に骨様硬のびまん性の腫脹を認めた。口腔内では、左下6部の歯肉を中心に腫瘤を認めた。またCTにて左下顎骨に骨破壊、骨化を伴う70×50@のmass lesionを認めた。
 【治療計画】骨肉腫に対する有効薬剤はメトトレキサート(以下MTX)、イホスファミド(以下IFM)、シスプラチン、ピラルビシン等が知られてる。今回、われわれは術前化学療法の効果により術後の化学療法を決定するRosen T12に代表されるプロトコールを参考に治療計画を立てた。
 【治療経過】入院後、MTX大量療法を施行した。MTX投与後、腫瘍の急速な増大を認めたため、以降の術前化学療法を断念し、急遽手術を施行した。十分な安全域を設けることが出来なかったため、術後放射線治療を施行した。放射線終了直前、胸部CTにて、肺転移を認めた。切除材料にて50%以上viableな腫瘍細胞を認めたため、IFMを中心とした化学療法に切り替えた。IFM投与後、肺転移巣の縮小を認めた。
 IMFを2回投与した後、気胸を生じ、当院呼吸器外科にて治療を行ったが、気胸の改善は見られず、胸腔ドレーンを留置したまま以後の化学療法を行った。IFM投与約6カ月後より肺転移巣の増悪を認め、投与から1年後心不全のため永眠された。

デジタルマイクロスコープを用いた切除マージンの診断

○ 栗田 浩、成川純之助、中塚厚史、酒井洋徳、小池剛史、小林啓一、倉科憲治

 腫瘍の外科的切除に際して、腫瘍の完全切除を確認する方法として術中迅速病理診断法が行われている。しかし、
この方法は結果が出るまである程度の時間を要する点や、検査できる部位が制限されるなどの欠点がある。また、採
取した迅速病理組織片に腫瘍が含まれていなくても、実際に十分な切除安全域(切除マージン)が確保されているか
否かは不明である。そこでわれわれは、迅速病理組織診断法に代わる方法として、デジタルマイクロスコープを用い
て切除物断面の直接的観察による診断法を試みている。本方法は手術台の横でリアルタイムに施行可能で、摘出組織
ほぼ全体を観察できる利点を有している。今回は、本法の概要を報告するとともに、本法の切除マージン(特に深部
断端)の診断の可能性について検討し報告する。
【対象】口腔癌患者12例から得られた腫瘍の切除標本(扁平上皮癌11例、腺様嚢胞癌1例)。
【方法】腫瘍切除後、切除摘出組織の最大割面を作成し、デジタルマイクロスコープおよびズームレンズ(VH-7000
or VH-8000/VH-Z25、キーエンス株式会社、大阪市)にて観察。同割面の病理組織標本を作製し、デジタルマイク
ロスコープによる観察結果と病理組織検査結果とを比較検討した。
【結果】デジタルマイクロスコープによる観察により、深部断端を検出精度約83%(10/12)で検出可能であった。
また、切除マージンを約1mmほどの誤差(中央値1.0mm、IQR 0.8-1.5mm)で診断可能であった。
【結語】デジタルマイクロスコープによる検査法により、ほぼ正確な切除マージン(深部断端)の診断が可能であり、
深部切除マージンの診断において本法が迅速病理診断に代わりえる可能性が示唆された。

研究状況のページに戻る

<所在地>
〒390-8621 長野県松本市旭3-1-1
信州大学医学部歯科口腔外科
電話;0263-37-2677 fax; 0263-37-2676
Copyright
Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine
*このページ作成・管理は信州大学医学部歯科口腔外科学教室が管理しています。
このサイトに関するご意見、ご感想、ご提案等は hkurita@hsp.md.shinshu-u.ac.jp