信州大学医学部歯科口腔外科
Department of Dentistry and Oral Surgery, Shinshu University School of Medicine

第13回日本有病者歯科医療学会総会
(2004年4月3ー4日、川越市)
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がん化学療法患者に対する口腔ケア
○小池剛史、林 清永、楠 公孝、中塚厚史、酒井洋徳、小林啓一、栗田 浩、倉科憲治

 口腔は、多くの要因によりがん化学療法による治療関連毒性の主な標的となっている。高用量のがん化学療法を受けた患者では、口腔感染症および口腔細菌が原因となる全身感染症は重大な問題となる。積極的な口腔ケアの導入は、全身続発症のリスクを減少させ、患者QOLや予後の向上、ひいては医療費の減少につながる重要なファクターであると考える。今回われわれは、当科に紹介されたがん化学療法患者をレトロスペクティブに調査し、これまでの傾向や問題点などを把握したうえで、「がん化学療法患者に対する口腔ケアマニュアル」を作製した。今回は、マニュアル作製にあたり調査した結果について報告した。
 2000年1月から2003年10月までの期間中、がん化学療法患者の当科への紹介は135例であった。原疾患別では、白血病や悪性リンパ腫などの血液系悪性腫瘍患者が約半数を占めていた。紹介時期は、化学療法施行中の紹介が約半数を占め、歯科的治療を要したために化学療法開始時期の延期を余儀なくされた症例が4例存在した。化学療法前の口腔スクリーニング・ケアの重要性が関連各科に認識されてきつつあるものの、今後さらに啓蒙を行う必要があると思われた。当科への紹介目的では、化学療法施行前の口腔スクリーニング・ケアの依頼(32例)と化学療法中に出現した“疼痛”を主訴とした口腔症状の精査・加療依頼(29例)が多くみられた。化学療法施行中に口腔内症状が出現した症例は、いずれも化学療法施行前に口腔スクリーニン・ケアを受けていない症例であった。化学療法中に出現した“疼痛”の原因は、粘膜炎(8例)や根尖性歯周炎(7例)が多くみられた。一方、化学療法施行前に口腔スクリーニング・ケアを受けた症例では、化学療法に伴う口腔合併症出現率が3.1%ときわめて低く、化学療法前の口腔スクリーニングや口腔ケアの有効性が示唆された。

抜歯後の異常出血により多発性骨髄腫が発見された1例
○中塚厚史、内山 麻由子、小池剛史、小林啓一、栗田 浩、倉科憲治

 今回、われわれは、抜歯後に異常出血を認め、内科の協力の下検査を進め、多発性骨髄腫が発見された1例を経験したので報告した。
 患 者:75歳、女性。
 初診日:2003年8月19日。
 主 訴:左上大臼歯部の違和感。
 現病歴:2003年5月25日、交通外傷にて全身打撲、歯牙亜脱臼、口唇裂傷を生じ、近病院外科へ搬送された。その後、近歯科医院を紹介され受診し、亜脱臼した右下2の抜歯を行ったところ数日間出血を認めた。さらに左上大臼歯部の違和感を訴えていたが、後出血の可能性を考慮し、当科での処置依頼により紹介され受診となった。
 既往歴:高血圧症、慢性C型肝炎にて近内科にて加療中であった。
 現 症:全身所見、体格中等度。口腔内所見、左上6、右上67、左下2に打診痛を認め、動揺度2〜3であった。また全顎に渡り歯周病を認めた。
 画像所見:初診時のパノラマX線写真にて上下顎の歯槽骨に垂直性骨吸収像を認め、右上67、左上6には根尖病巣を認めた。
 検査所見:出血時間は6分半であったが、血小板11.3×104/μlであった。またPT、APTTともに延長していた。HbA1cは5.7と正常であり糖尿病のコントロールはほぼ良好であった。
 治療経過:外来にて局所麻酔下で左上6、右上67、左下2を抜歯。抜歯後、抜歯窩に止血剤を填入し縫合。その上に止血用シーネを装着した。後出血を認め、1週間後でも右上67部からの出血が止まらず、入院下で加療を行うこととなった。当院内科での精査の結果、肝細胞癌を認め、さらに多発性骨髄腫が発見された。また上顎のCTを撮影したところ右上67部に骨欠損像を認め、同部に骨髄腫の存在が明らかとなり、これが原因となり異常後出血が生じたことが判明した。その後、2度縫合処置を行ったところ入院から約2週間後に完全に止血を認め、退院となった。現在、多発性骨髄腫に関しては内科で経過観察を行っている。
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