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信州大学 理学部 物理科学科 宇宙線実験研究室(全学教育機構)

研究RESEARCH

クェーサー吸収線とは?

 クェーサーとよばれる天体が宇宙のはるか彼方にあります。その正体は、遠方銀河の中心領域に存在する太陽の100万〜10億倍ほどの質量をもつ巨大なブラックホールに、周囲のガスが引き込まれる際に光のエネルギーを放って輝いているものだと考えられています。銀河全体の100倍以上の光を放つものもあるため、クェーサーは遠くからでも観測できる、いわば宇宙の灯台のような役割を果たしているといえます。
 クェーサーからの光は様々な吸収の効果を受けてから地球に届きます。例えばクェーサー自身が持つガス (上図@), クェーサーと地球の視線上にたまたま存在する銀河の周辺領域のガス (A), 銀河間物質 (B), 銀河の中心領域(C), そして私達の銀河系の星間物質(D)による吸収を受けてから、最後に地球上層大気の吸収を受けて地上望遠鏡で観測されます。クェーサーの光はそのままでは単なる「点」にしか見えませんが、分光観測という天体の虹を捉える観測を行うことにより途中に存在した物質を「吸収線」として検出することができるようになります。この吸収線を調べることにより、宇宙の様々な謎に迫ることができます。
 以下では、現在私たちが取り組んでいる研究テーマについて個別に紹介します。


クェーサーアウトフローの研究

 

 クェーサーは背景光源であると同時にそれ自身が吸収線をもたらす場合があります。莫大な光のエネルギーを放出するクェーサーは、その輻射圧により周囲のガスを外向きに加速しています。このようにクェーサーから離れる向きに加速されたガスの流れをアウトフローと呼びます(左上図)。私たちがクェーサーの光源を見込む視線上にこのアウトフローが位置している場合、クェーサーのスペクトル上にアウトフローガスによる吸収線ができます。吸収線の線幅に応じて、BAL(Broad Absorption Line), mini-BAL, NAL (Narrow Absorption Line) に分類されますが、いずれもクェーサーの内部構造を探るうえで重要な情報をもたらします(右上図)。とくにNALについては、すばる望遠鏡をはじめとする10メートル級望遠鏡の高分散分光装置の出現によって、クェーサーと無関係な手前にある銀河・銀河間ガスとの区別が可能となったため、近年、多くの研究者が注目しています。私たちのグループもNALに見られる時間変動傾向を、分光・測光同時モニター観測を通して調べています。


銀河・銀河間物質の研究

 

 クェーサーのスペクトル上にみられる吸収線の大半は、クェーサーとは無関係な銀河・銀河間物質によるものだと考えられています(左上図)。観測者とクェーサーを結ぶ視線上に位置するあらゆるガスが吸収線をもたらしますが、それらが検出される位置(すなわち波長)は、吸収体の赤方偏移と吸収物質の種類に依存します。しかしこれらは縮退するため1本の吸収線を同定することは困難です。そこで通常は2重共鳴吸収線(例えばC3+,Si3+, N4+ による吸収線ペア)を使って同定します。各吸収線はVoigt profileとよばれる輪郭を使って、@赤方偏移, Aガスの柱密度 (体積密度を視線方向に積分したもの), B線幅 (Doppler parameterと呼ばれます), C掩蔽率 (吸収体が背景光源を視線方向に対して覆っている比率) などをフリーパラメータとしてフィットされます。その結果、吸収体の化学組成、電離状態、温度、密度などに制限を付けることが出来ます。一つの視線上の情報しか得られないのが欠点ですが、例えば重力レンズクェーサーによる多視線観測を行えば、部分的に空間情報を得ることも可能になります(右上図)。


星間空間に漂うフラーレンの研究

 影絵をつかった天体観測は銀河系内の星に対しても行うことができます。この場合、吸収線として検出されるのは星と星の間に存在するガス、すなわち星間物質です。星間物質がもたらす吸収線の中にはいまだに同定されていない吸収線が数百本も残されています。稀薄な星間物質によってもたらされるこれらの吸収線は Diffuse Interstellar Bands (DIBs) と呼ばれ、観測天文学に残された最も息の長い課題の一つとなっています。近年、一部のDIBsに対しては対応する吸収物質(キャリア)の候補が提案されています。その一つが、9577Åと9632ÅのDIBsのキャリア候補であるC60フラーレンです (Foing & Ehrenfreund 1994)。宇宙空間におけるフラーレンの存在はすでに確実視されています (Cami et al. 2010)。現在、私たちはこれらのDIBsとフラーレンの関連をサポートする新たな証拠を探しています。大気吸収線による影響をいかに取り除くかが鍵になります(左上図)が、すでに過去の研究でフラーレンC60との関連をうかがわせる計5本のDIBsの検出(右上図)に成功しています (Misawa et al. 2009)。


研究成果

査読論文
2016
"Multi-Sightline Observation of Narrow Absorption Lines in Lensed Quasar SDSS J1029+2623", T. Misawa, C. Saez, J. C. Charlton, M. Eracleous, G. Chartas, F. E. Bauer, N. Inada, H. Uchiyama, 2016, Astrophysical Journal, 825, 25

"Optical Variability Properties of Mini-BAL and NAL Quasars", T. Horiuchi, T. Misawa, T. Morokuma, S. Koyamada, K. Takahashi, H. Wada, 2016, Publications of the Astronomical Society of Japan, in press.

"The Wide-Angle Outflow of the Lensed z = 1.51 AGN HS 0810+2554", G. Chartas, M. Cappi, F. Hamann, M. Eracleous, S. Strickland, M. Giustini, T. Misawa, 2016, Astriphysical Journal, 824, 53

2014

"The UVES Large Program for testing fundamental physics - III. Constraints on the fine-structure constant from three telescopes", T. M. Evans, M. T. Murphy, J. B. Whitmore, T. Misawa, M. Centurion, S. D'Odorico, S. Lopez, C. J. A. P. Martins, P. Molaro, P. Petitjean, H. Rahmani, R. Srianand, M. Wendt, 2014, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 445, 128

"Resolving the Clumpy Structure of the Outflow Winds in the Gravitationally Lensed Quasar SDSS J1029+2623", T. Misawa, N. Inada, M. Oguri, P. Gandhi, T. Horiuchi, S. Koyamada, R. Okamoto, Astrophysical Journal Letters, 794, L20

"Monitoring the Variability of Intrinsic Absorption Lines in Quasar Spectra", T. Misawa, J. C. Charlton, M. Eracleous, Astrophysical Journal, 792, 77

"The COS/UVES Absorption Survey of the Magellanic Stream. III: Ionization, Total Mass, and Inflow Rate onto the Milky Way", A. J. Fox, B. P. Wakker, K. A. Barger, A. K. Hernandez, P. Richter, N. Lehner, J. Bland-Hawthorn, J. C. Charlton, T. Westmeier, C. Thom, J. Tumlinson, T. Misawa, J. C. Howk, L. M. Haffner, J. Ely, P. Rodriguez-Hidalgo, N. Kumari, Astrophysical Journal, 787, 147

"Magnified Views of the Ultrafast Outflow of the z = 1.51 Active Galactic Nucleus HS 0810+2554", G. Chartas, F. Hamann, M. Eracleous, T. Misawa, M. Cappi, M. Giustini, J.C. Charlton, M. Marvin, 2014, Astrophysical Journal, 783, 57

"Extended Lyα Emission from a Damped Lyα Absorber at z = 3.115", N. Kashikawa, T. Misawa, Y. Minowa, K. Okoshi, T. Hattori, J. Toshikawa, S. Ishikawa, M. Onoue, 2014, Astrophysical Journal, 780, 116

2013
"A census of quasar-intrinsic absorption in the Hubble Space Telescope archive: systems from high-resolution echelle spectra", R. Ganguly, R. S. Lynch, J. C. Charlton, M. Eracleous, T. M. Tripp, C. Palma, K. R. Sembach, T. Misawa, J. R. Masiero, N. Milutinovic, B. D. Lackey, T. M. Jones, 2013, Monthly Notices of the Royal Astronomical Society, 435, 1233

"Modeling Line-Driven Disk Wind for Broad Absorption Lines of Quasars", M. Nomura, K. Ohsuga, K. Wada, H. Susa, T. Misawa, 2013, Publications of the Astronomical Society of Japan, 65, 40

"Spectroscopy along Multiple, Lensed Sight Lines through Outflowing Winds in the Quasar SDSS J1029+2623", T. Misawa, N. Inada, K. Ohsuga, P. Gandhi, R.Takahashi, & M.Oguri, 2013, Astronomical Journal, 145, 48


学会発表
2017
"クェーサーのアウトフローにみられる時間変動傾向の起源", 堀内貴史, 三澤透, 小山田涼香, 和田久, 伊東大輔, 諸隈智貴, 2017/3/16, 日本天文学会2017年春季年会 (九州大学)

"光電離モデルを用いた single/double 成分 C IV 吸収体の物理状態の解明", 和田久, 三澤透, 小山田涼香, 2017/3/15-18, 日本天文学会2017年春季年会(九州大学)

"BALQSO視線上におけるintrinsic NALの探査", 伊東大輔, 三澤透, 堀内貴史, 2017/3/15-18, 日本天文学会2017年春季年会(九州大学)

2016
"AGN Outflowの多視線観測によるKinetic Luminosityの不定性評価", 三澤透, Cristian Saez, Jane C. Charlton, George Chartas , 稲田直久, 2016/3/14-17, 日本天文学会2016年春季年会 (首都大学東京)

"イオン化したフラーレン (C60+) を起源に持つ DIB のモニター分光観測", 高橋一馬, 三澤透, Poshak Gandhi, 2016/3/14-17, 日本天文学会2016年春季年会 (首都大学東京)

2015

"分光モニター観測によるクェーサーアウトフローガスの調査", 堀内貴史, 三澤透, 小山田涼香, 高橋一馬, 和田久, 諸隈智貴, 2015/9/9-11, 日本天文学会2015年秋季年会 (甲南大学)

"レンズクェーサーを用いた多視線分光観測によるCGMの空間分布調査", 小山田涼香, 三澤透, 稲田直久, 大栗真宗, 柏川伸成, 2015/9/9-11, 日本天文学会2015年秋季年会 (甲南大学)

"クェーサー光度とアウトフローの時間変動の関連", 堀内貴史, 三澤透, 小山田涼香, 高橋一馬, 諸隈智貴, 2015/3/20, 日本天文学会2015年春季年会 (大阪大学)

"レンズクエーサーを用いた多視線分光観測による金属吸収体の統計的調査", 小山田涼香, 三澤透, 稲田直久, 大栗真宗, 2015/3/19, 日本天文学会2015年春季年会 (大阪大学)

"DIB の変動に対するキャリア周辺環境の影響 ", 高橋一馬, 三澤透, Poshak Gandhi, 2015/3/20, 日本天文学会2015年春季年会 (大阪大学)

"最大離角レンズクェーサーによる AGN アウトフロー内部構造の調査", 三澤透, 稲田直久, 大栗真宗, Poshak Gandhi, 小山田涼香, 堀内貴史, Cristian Saez, 2015/3/20, 日本天文学会2015年春季年会 (大阪大学)


2014
"星形成領域における近赤外DIBsと電離フラーレン(C60+)の関係", 岡本理奈, 三澤透, 高橋一馬, Poshak Gandhi, 2014/3/21, 日本天文学会2014年春季年会 (国際基督教大学)

"レンズクエーサーを用いた多視線による高赤方偏移吸収体の諸性質の解明", 小山田涼香, 三澤透, 稲田直久, 大栗真宗, 2014/3/21, 日本天文学会2014年春季年会 (国際基督教大学)

"アウトフローガスとクェーサー光度の示す時間変動の関係", 堀内貴史, 三澤透, 岡本理奈, 小山田涼香, 諸隈智貴, 2014/3/21, 日本天文学会2014年春季年会 (国際基督教大学)

2013
"AGNアウトフローの変動傾向およびその起源について", 三澤透, 堀内 貴史, 岡本 理奈, 小山田 涼香, 諸隈 智貴, J. C. Charlton, M. Eracleous, 2013/9/11, 日本天文学会2013年秋季年会 (東北大学)

"多視線高分散分光観測によるマゼラニックブリッジの3次元マッピング", 三澤透, J. C. Charlton, H. A. Kobulnicky, P. Richter, P. Rodriguez-Hidalgo, B. P. Wakker, A. Fox, 2013/3/21, 日本天文学会2013年春季年会 (埼玉大学)

"クェーサー光度とアウトフローガスに見られる時間変動の相関関係", 堀内貴史, 三澤透, 岡本理奈, 小山田涼香, 諸隈智貴, 2013/3/21, 日本天文学会2013年春季年会 (埼玉大学)

2012
"クェーサー吸収線系とASTRO-H衛星", 三澤透, 2012/3/22, 日本天文学会2012年春季年会 (龍谷大学)

2011
"最大離角レンズクェーサーによる放出ガスフィラメント構造の検証", 三澤透, 稲田直久, 大須賀健, Poshak Gandhi, 小波さおり, 高橋労太, 川原田円, 2011/9/22, 日本天文学会2011年秋季年会 (鹿児島大学)

2010
"DLA吸収線系としての Magellanic Bridge の可能性", 三澤透, J. C. Charlton, P. Rodriguez-Hidalgo, H. A. Kobulnicky, B. P. Wakker, P. Richter, J. Bland-Hawthorn, 2010/9/24, 日本天文学会2010年秋季年会 (金沢大学)