信州大学  工学部  物質化学科
信州大学大学院  総合理工学研究科  工学専攻 物質化学分野(修士課程)
信州大学大学院  総合医理工学研究科  総合理工学専攻(博士課程)


セルロースの酵素分解を促進するタンパク質に関する研究

セルロース膨潤タンパク質 “Swollenin”


 トリコデルマが生産するSwolleninというタンパク質は,セルロースを "膨潤させる = swollen" から命名されました。Swolleninは,常にセルラーゼとともに生産されます。Glycoside hydrolase family 45 (GH45) のエンドグルカナーゼのアミノ酸配列に若干の相同性を示し,N末端にリンカーを介してCBM1を有します。セルロースに対しては,弱い加水分解活性を示します。図は,Swollenin処理したコットン繊維の写真です。セルロース分解が認められないような希薄濃度のセルラーゼにSwolleninを添加すると,その添加濃度に依存して分解が促進されることがわかっています。一方,トリコデルマが植物細胞に感染する際に働いているという報告もあります。しかし,ラボスケールでセルロースの分解を行うときのような高濃度のセルラーゼに対して,Swolleninの添加効果は全く認められません
 Swolleninの生産量は比較的高く(我々の調査ではCBH1に比較して4%の転写レベル),その本来の機能は未だ明らかになっていません。

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Swollenin についての参考文献
■ Saloheimo M et al. (2002) Swollenin, a Trichoderma reesei protein with sequence similarity to the plant expansins, exhibits disruption activity on cellulosic materials. Eur J Biochem, 269, 4202−4211.
■ Broman Y et al. (2008) Role of swollenin, an expansin-like protein from Trichoderma, in plant root colonization. Plant Physiol, 147, 779−789.
■ Gourlay K et al. (2013) Swollenin aids in the amorphogenesis step during the enzymatic hydrolysis of pretreated biomass. Bioresour Technol, 142c, 498ー503.
■ Andberg M et al. (2015) Swollenin from Trichoderma reesei exhibits hydrolytic activity against cellulosic substrates with features of both endoglucanases and cellobiohydrolases. Bioresour Technol, 181c, 105−113.
■ Gourlay K et al. (2015) The use of carbohydrate binding modules (CBMs) to monitor changes in fragmentation and cellulose fiber surface morphology during cellulase- and Swollenin-induced deconstruction of lignocellulosic substrates. J Biol Chem, 290, 2938−2945.
■ 野﨑功一 (2015) セルロース分解を補助する謎のタンパク質. 生物工学(バイオミディア), 11月号.

セルロースで誘導される機能未知のタンパク質 “Cip1”


 Cellulose induced protein(Cip1)は,トリコデルマがセルロース培地で生産するタンパク質です。生化学的な機能は全く解明されていません。最近になって,その立体構造が解明されました。β-サンドイッチ構造にCaイオンを保持したグリップモチーフを有し,コレラ菌のアルギン酸リアーゼやトリコデルマのβ-1,4-グルクロナンリアーゼに非常に良く似た構造をもちます。しかし,今のところCip1には各種糖質に対するリアーゼ活性は確認されていません。また,私が確認したところ,セルラーゼに対する添加効果もありませんで した。一方,参考までですが,類似した立体構造をもつタンパク質に,一部のCarbohydrate-binding module(CBM4, CBM17, CBM22, CBM27)がありますが,Cip1との関連性はわかっていません。Cip1の機能は未解明ですが,C末端にリンカーを介したCBM1(Y-YYモチーフ)をもつことから,セルロースに結合してバイオマス中の何らかの成分に作用していると考え ています。

Cip1 についての参考文献
■ Foreman PK et al. (2003) Transcriptional regulation of biomass-degrading enzymes in the filamentous fungus Trichoderma reesei. J Biol Chem, 278, 31988−31997.
■ Herpoel-Gimbert I et al. (2008) Comparative secretome analyses of two Trichoderma reesei RUT-C30 and CL847 hypersecretory strains. Biotechnol Biofuels, 1, 18.
■ Banerjee G et al. (2010) Synthetic multi-component enzyme mixtures for deconstruction of lignocellulosic biomass. Bioresour Technol, 101, 9097−9105.
■ Jacobson F et al. (2013) The crystal structure of the core domain of a cellulose induced protein (Cip1) from Hypocrea jecorina, at 1.5 Å resolution. PLoS One, 8, e70562.

エンドグルカナーゼ様タンパク質 “EEL2”


 Expansin/family-45 endoglucanase-like domain(EEL)は,トリコデルマで見つかったGH45 エンドグルカナーゼとExpansinに類似したアミノ酸配列をもつタンパク質です。その中でもEEL2は,セルロースの存在下で特異的に遺伝子が発現しますが,タンパク質の実態についての報告はありません。植物やBacillus属の細菌には,Expansinという細胞の伸長に関係するタンパク質が存在します。EEL2のアミノ酸配列の一部は,Expansinと相同性を示します。我々の研究室では,EEL2の異種生物発現を試みてきましたが,いずれも失敗に終わっています。生物学的な機能については,未知のままです。

EEL2 についての参考文献
■ Verbeke J et al. (2009) Transcriptional profiling of cellulase and expansin-related genes in a hypercellulolytic Trichoderma reesei. Biotechnol Lett, 31, 1399−1405.

キノコから “Expansin”


 EEL2の項目でも述べましたが,Expansinは細胞の伸長に関与する植物および細菌由来のタンパク質です。Expansinはセルロースの膨潤にも関与していることが報告されています。私どもが長年研究しているIrpex lacteus(ウスバタケ)のゲノム解析によって,本菌にもいくつかのExpansin様遺伝子が存在することが明らかになっています。機能などは全くわかっていませんが,順次研究を進めていく予定です。


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