•  氏名 土井達也

     所属・役職 学術研究・産学官連携推進機構 准教授(URA)

     研究開発マネジメント従事年数 13年

     信州大学勤務年数 13年

    Q1. 現在の主要な業務と役割を教えてください。

    私は、信州大学の研究力を高めるためのマネジメント業務に携わっています。信州大学は「地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(J-PEAKS)」に採択され、水に関わる研究を軸に"地球再生"まで視野に入れた取り組みを進めています。その中で私は、研究力を強化するための研究組織の運営、地域の課題解決に向けた研究開発プロジェクトの獲得・推進、世界の水問題の解決に向けて、海外の研究機関や現地との連携体制づくり、といった業務を担当しています。これらを通じ、信州大学が地域中核大学としてさらに発展することを支援しています。

    Q2. 信州大学で研究開発マネジメント人材として働く前は、どのような経験やバックグラウンドがありましたか?

    着任前は、大学院博士課程で炭素系材料の電気伝導を研究していました。また、研究成果の社会実装を目指すビジネスコンテストで最優秀賞を受賞した経験があります。研究活動では、仮説の設定、検証方法の検討、実験と結果の考察、仮説の修正、といった一連のプロセスを通じて、新たな知見を生み出す姿勢を培いました。これは、どのような仕事においても有効な"課題を見抜き、改善する"基本的な進め方です。また社会実装の経験では、企業や自治体など異なる立場の人々と協働する力が必須でした。このとき役立ったのが、研究で身につけた「問いを立てる力」です。適切な問いによって課題が明確になり、共通の方向性を見いだすことができます。これらの経験は、現在の研究開発マネジメント業務にも直結しています。

    Q3. 研究開発マネジメントの仕事を志したきっかけを教えてください。

    科学技術は、社会の中で使われて初めて価値を持ちます。そのためには、優れた研究を進めるだけでなく、研究成果を社会に届け価値化する機能を大学が備える必要があります。私はこの視点から、研究開発マネジメントの仕事に関心を持つようになりました。研究成果を社会に伝えるには、国や自治体の政策、企業の戦略などと調和した取り組みが欠かせません。こうした"ビジョンレベル"で研究を方向づけるマネジメントは、これまで大学では十分に整備されていない面もありました。その機能を強化することで大学がさらに世の中に貢献できるようにしたいという思いから、現在の職務に就きました。

    Q4.信州大学での業務の中で、これまでに挙げた具体的な実績・成果を教えてください。

    • ・信州大学の特色ある材料研究を束ねた研究所の立ち上げ支援。
    • ・文部科学省の支援を受けたCOIプログラム「アクア・イノベーション拠点」の運営、成果の社会実装支援。シーズニーズ探索副統括。
    • ・文部科学省の支援を受けた結晶材料を地域への社会実装を目指すプロジェクトの資金獲得・運営。副事業プロデューサー。
    • ・科学技術振興機構(JST)の支援を受けた医療機器の研究開発プラットフォーム形成・社会実装を目指すプロジェクトの資金獲得・運営支援。
    • ・文部科学省の支援を受けて創出した浄水技術の海外への社会実装を加速化するプロジェクトの資金獲得・運営支援。
    • ・信州大学の結晶材料を基軸とした材料ブランド「信大クリスタル」の立ち上げおよび、信大クリスタルラボ設立・運営。信大クリスタルラボ副所長。
    • ・信州大学の研究・インキュベーション施設合計3棟の予算獲得支援・デザイン等。
    • ・文部科学省の地域中核・特色ある研究大学強化促進事業の予算獲得、設置したアクア・リジェネレーション機構の運営支援。
    • ・文部科学省の大阪・関西万博出展支援事業の予算獲得、信州大学の水関連技術の万博出展。事業リーダー。
    • ・内閣府のマテリアルスタートアップをユニコーン化支援するプロジェクトの予算獲得・運営。研究代表者。
    • ・国土交通省の中山間地の上下水道の持続化に向け本学技術を採用した水循環システムの実証に関するプロジェクトの予算獲得・運営。
    • ・令和8年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 研究支援賞受賞 「研究の強みに基づく水研究拠点形成と産業波及への貢献」

    など多数の実績あり。

     

    Q.大学経営層・研究者や外部機関との連携で意識していることを教えてください。

    多くの人が関わるプロジェクトでは、参加者それぞれの立場の違いを理解することが重要です。大学の中でも職種や役職によって視点が異なりますが、企業や自治体が加わると、さらに考え方や目的が変わってきます。そのような環境で物事を前に進めるためには、関係者全員が「共通の理解」に到達できるよう、情報を適度に抽象化して伝えることが欠かせません。また、用語の選び方にも細かな配慮が必要です。具体と抽象を行き来しながら状況を整理する思考法は、研究開発の企画立案や経営企画でも求められます。現在異なる分野で活躍されている方々も、これまで培ってきた多様なスキルを研究開発マネジメントに応用することができます。

    Q.現在の業務経験を通じて、自身の強みがどのように活かされていると感じますか。

    社会には、多様な知識や価値観、立場があります。それらすべてを一人で把握することはとても困難です。その中で必要になるのが「質問する力」です。他者が持つ知識や経験を、意味のある形で引き出し、プロジェクトの成果につなげるための重要なスキルです。その前提として、自分が"何も知らない"という姿勢を持つことが大切です。「無知の知」や「無用の用」という言葉にも通じる考え方です。博士課程で一つのテーマを深く掘り下げた経験は、知識を深めれば深めるほど、その先に広がる未知の世界がどれほど大きいかを実感する機会でもありました。この感覚が、現在の業務における謙虚さと探究心につながっています。

    Q.今後、強化したいことや挑戦してみたいことはありますか?

    今後は、大学を中心とした「資金循環のエコシステム」づくりに挑戦したいと考えています。大学は、国からの運営費交付金、学生の授業料、国・自治体・企業などからの外部資金によって運営されています。しかし、大学が持つ知的資産を基盤とした持続的な資金循環の仕組みを整えることは、今まさに求められている課題です。安定した財務基盤があれば、大学はより良い研究環境や教育環境を提供でき、様々な人材を引き付けるこでより良い大学になります。そして、良い大学は良い産業を生み、ひいては良い国家の基盤になります。そのエコシステムの構築に向けて、力を注いでいきたいと考えています。