信大NOW152号
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バイオハイブリッドドローンの開発と将来的な匂いによる要救助者探査のイメージ生きたカイコガの触角を切り取り、ピンセットを使って電極に接続する照月准教授によると、今回開発したドローンのポイントは大きく2つあるといいます。1つ目は、匂い源を探索する際に、“一時停止(ホバリング)”する動作を組み込んだことです。自然界で観測される昆虫も、常に動き続けるわけではなく、匂いの方向へ移動する動作と、方向を判断するために止まることを繰り返しながら、匂い源に向かうことが調べられています。これをヒントに、新開発したドローンの動作の中に、戦略的に動きを停止させる動作を組み込み、回転と一時停止を交互に繰り返す「段階的回転アルゴリズム」を導入しました。機械は生物と違って動き続けることが可能なため、「わざわざ止まる動作をさせるという発想は見落とされがちな要素でした」と照月准教授は振り返ります。しかし、空気中の匂い分布は複雑に変化するため、匂い源の方向を見失う「ノイズとなる信号が発生しやすい」といいます。てみたことが結果的に今回の世界新記録という結果を生んだといます。次世代匂い追跡ドローンのもう1つのポイントは、匂いセンサに取り付けた特別なエンクロージャ(匂いを取り込むカバー)です。カイコガが、自らの羽ばたきによって気流をコントロールし、自身の触角に選択的に匂いを誘導することができる一方で、ドローンはプロペラ飛行のため、機体全体が匂いに包まれてしまい、匂いが来る方向を正確に判断することができないという課題がありました。この課題に対し、照月准教授らは流体力学的観点から気流を制御できる形状のエンクロージャを開発し、カイコガの羽ばたきの一部を再現したそうです。具体的には、先端を少し開いた形に工夫したことで、気流の流れを乱さずに匂いを誘導させることが可能となりました。従来モデルでは左右90度の範囲で匂いを検出していたのが、今回のものは左右45度の範囲でより強く匂いを検出することができるようになったそうです。匂い検出の角度を絞ったことによって、匂い源がどの方向にあるのかを推定する精度が飛躍的に向上しました。そのため、従来のドローンでは、匂い源を正しく判断できなくなる信号がセンサから検出されることもしばしばみられたそうです。今回一時停止する動作を組み込んだことで、こうしたノイズを「うまく均してやることにつながった」と照月准教授。急ぎすぎずに、一度止まっ本研究の成果をまとめた論文は、英誌「 N a t u r e 」の 関 連 誌 で あ る「 n p j Robotics」に掲載され、大きな反響を呼んでいます。また、繊維学部で記者会見を行った結果、研究成果は15か国語で報道され、NHKの配信番組NHK WORLD - JAPAN『Science View』でも取り上げられるなど、社会的注目を集めています。「2025年2月に記者会見を行ってから、想像できないくらいの反響がありました」と語る照月准教授、各所からの取材によって多忙な日々を送っているといいます。そんななか、現在力を入れているのが、“蚊の触角”を使った匂い追跡ドローンの開発です。メスのフェロモンに反応するカイコガと異なり、蚊は人間の匂いに反応します。この特性を利用して匂い源の探索ができれば、より直接的に災害時の要救助者の発見につなげることができます。これまで、「カイコガの研究だけでは、正直『研究の先に何ができるのか』という問いにはっきりと答えられなかった」と照月准教授。今回蚊の触角を活用したドローン開発のプロジェクトが動き出したことで、「この技術活用の展開が明確になった」とうれしそうに話します。すでに自衛隊や消防にもヒアリングを実施し、災害時の人命探索などの場面で「匂いの検出は有望」という声が複数あり、この領域に関する期待は非常に大きいといいます。「匂い源の特定」という困難な領域において躍進し続ける照月准教授らの研究グループ―次なる挑戦がどのように発展していくのか、今後の展開から目が離せません! 次なる目標は“蚊の触角の活用”カイコガの羽ばたきを再現するエンクロージャを開発10

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