UnseedのAIサービスについて説明する山邉さん「AIで人間の可能性を拡張したい―」。そう話すのは、信州大学大学院 総合理工学研究科 工学専攻 修了生で、株式会社Unseed代表取締役CEOの山邊 璃久さんです。同社は法人向けにAIを活用した業務の効率化などを行っているスタートアップで、2024年3月に設立、同6月に「信州大学発スタートアップ」の称号を授与されています。山邊さんがUnseedで目指しているのは、“本当のAI”の提供です。「世の中でAIとして提供されているもの中には、実は“AIっぽいもの”も多い」と山邊さんは明かします。例えば、質問に対して予め用意した回答を返すといったもので、これは質問に対しての応答システムにすぎないといいます。一方で山邊さんの考える“本当のAI”は、質問者からどのような角度の質問が来ても、膨大なデータを分析・思考し最適な回答を提供できるようなものだそう。こうしたAIを開発するために重要なことが高精度化で、山邊さんはこの点にこだわっています。もうひとつ、こだわっているのが、個々の企業に合わせたフルオーダーメイド型の開発です。企業ごとにAIを通じて実現したいことは異なりますので、課題のヒアリングから丁寧に行い、それぞれの企業に合わせたAIの構築をきめ細かに行っているそうです。まだ設立から日が浅いUnseedですが、大きな注目を浴びており、例えば製造業の大手企業で、良品と不良品を識別するためのAIが導入されています。また、今後の成長分野である衛星データを活用した事業を行う企業でも、UnseedのAIは導入されているそうです。「衛星データ(衛星画像や光のスペクトルなど)をAIで分析することで、様々なことが可能になります」と山邊さんは話します。例えば、災害発生時の被害状況把握や老朽化で破裂の危険性のある上下水道管を見つけること、農作物の適切な収穫のタイミングの把握、山林の植生の分析、住宅屋根に設置した太陽光パネルの発電効率の試算などもできるそうです。山邊さんのAIとの出会いは大学院1年生のときでした。コロナ禍で自宅待機を余儀なくされ、思うように授業を受けられないなかで、何か熱中できることはないかと探していたところAI開発に出会ったそうです。過去のデータから、株価や商品の売上などを予測できるということに驚きと可能性を感じ、AIに対してどんどん興味を引かれていきました。大学院でのプログラミングの知識を土台に、オンライン講座でAI開発を学ぶうちに、めきめき技術が向上し、なんとコンペティションで10回以上入賞するなど、学生時代から早くも頭角を現します。AIの開発はPDCAサイクルを繰り返して精度を高めていく工程であるため、「こつこつと積み重ねるという自分の性格と合っているのではないか」と山邊さんは考えています。に参加したコンペティションで出会った仲間の存在が大きかったといいます。参加者の中には、その技術を強みに起業している人も多くおり、山邊さんは大きな刺激を受けて、自分も起業しようと決意したそうです。大学院修了後は、大手コンサルタント会社のデロイトトーマツに一度就職しましたが、それも将来的な起業を見据えてのこと。企業ごとに課題を丁寧に聞き出し、それに対する解決策を提案するUnseedのサービスの礎を養ったそうです。今後の展望についてお聞きすると、「目下の目標はサービスの質をより高めていくこと。それと、出身地である長野県内の企業にAIを通じて貢献していきたいですね」と山邊さん。AIの開発拠点は日本では首都圏に集中しており、長野県内の企業がAIを経営に取り入れようと考えても、思ったように取り組めないことも多いそうです。山邊さんが代表を務めるUnseedも東京に拠点を置いていますが、積極的に長野県へ足を運び、サービスを提案していきたいと考えています。それにあたり、「信州大学発スタートアップ」の称号を授与されたことの恩恵はとても大きいといいます。スタートアップは門前払いされることもあるそうですが、「信州大起業のきっかけは、大学院生時代学のお墨付きを得たことで、信頼性や認知度の向上につながり、特に長野県内企業に提案する際には大きな安心感がある」と話します。Unseed山邊さんの挑戦は始まったばかり。若き起業家の今後の飛躍に期待が高まります。山邊さんが大学院生の時に読んで感銘を受けたのは、『 サードドア:精神的資産のふやし方』(アレックス・バナヤン著、大田黒 奉之 訳・東洋経済新報社)。18歳の大学生が、ビル・ゲイツ、レディー・ガガ、スピルバーグなどの米国各界の著名人に会いに行き、人生の夢を叶える方法をインタビューした内容をまとめたものです。人生の夢を叶えるためには、3つのドア(方法)があり、1つめは大多数の人が選ぶ「メインの正面ドア」、2つめは特権階級が通る「VIP専用ドア」、そして3つめが「サードドア」。誰しもが実は持っているけれど、使っていなかったり、見落としていたりするもので、成功者と言われる人達は皆、このドアを開いて夢を叶えたという内容です。この本が、起業という山邊さんのサードドアを開くきっかけのひとつになったそうです。起業したてで、とにかく多忙な毎日を送る山邊さん。そのなかで、息抜きのひとつが美味しいものを食べること。オンライン口コミサイトでお勧めの店をチェックして、週末に足を運ぶそう。「住みやすさはだんぜん長野県ですが、美味しいお店の数はやっぱり東京に分があります。今はその恩恵を存分に享受しています」と山邊さん。特に好きなものはイタリア料理。中でもティラミスが好物で食べ比べを楽しんでいるそう。また、パンにも目がなく、先日は新幹線で長野県に帰ってくる時に、お気に入りのお店に寄るために軽井沢で途中下車するほど。“本当のAI”を提供製造業大手や衛星データ解析で導入コロナ禍の自宅待機熱中できることはないか…ち ょ っ と 息 抜 き愛 読 書14Favorite BookHave abreak
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