理学部研究紹介2025
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理 学 科理 学 科研究から広がる未来 原発事故以後、安全な新たな原子炉システムの研究開発が課題になっています。リチウム -7 同位体は安全な原子炉として研究開発中の小型高速炉や小型溶融塩炉に必要な材料です。一方、リチウム -6 同位体はがん治療法の一つのホウ素中性子捕捉療法に使う中性子線の遮蔽材に使われています。また、国際的に研究開発が取り組まれている将来の核融合発電の燃料になります。卒業後の未来像卒業研究では実験結果を自ら確かめながら、理解を身に付けていきます。卒業後、仕事の課題に取り組む時、学んだ体験が役に立ちます。中学�高校の教師、公務員、研究�試験所、製造など大切な仕事に就いています。研究から広がる未来簡単に進みそうな化学反応でも、すぐに実用化できそうな技術でも、なかなか思い通りにはいかないことがたくさんあります。そうした反応や現象を、もう一度化学の基礎に立ち返って研究してみると、そこには予想を超える新たな発見があり、どんどん可能性が広がっていきます。卒業後の未来像 16カラム法イオン交換の実験。交換体は NH4 型ゼオライト A。Li 濃度(●)と同位体比(○)を測定。最初の溶出液に Li-7 が濃縮し、最後に Li-6 が濃縮した。[Li(OH2)4]+ の量子化学計算。水分子がゆらゆらして Li+ が飛び出そうとするが引き戻される。Li-7 が水に捕まりやすく、そのため Li-6 は交換体へ行く。水溶液プロセスで調製したリン酸カルシウム多孔体。これは 10μm 程度の連続した気孔をもっている。この多孔質構造を活かした環境浄化材料や人工骨補填剤としての性質を基礎的に調べている。 実験室で合成や分析を繰り返す毎日だが、年に数回は生物由来の無機物を探しにでかけている。 石川 厚 准教授信州大学大学院理学研究科修士課程、名古屋大学大学院 理 学 研 究 科 博 士 課 程 修了。防衛大学校化学教室助手などを経て 2006 年より現職。専門は無機化学、物理化学竹内 あかり 助教奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科後期博士課程修了後、九州大学助教、大分大学研究員などを経て、2012 年から現職。専門分野は無機化学、生体材料学リチウム元素はリチウム -7 安定同位体とリチウム -6 安定同位体の混合物です。イオン交換という化学反応を使ってリチウム -7 同位体濃縮物とリチウム -6 同位体濃縮物を製造する基本原理を研究しています。水溶液とイオン交換体との間のイオン交換平衡の同位体効果を利用します。この化学平衡の同位体効果はリチウム同位体の集団を一括して扱うので同位体濃縮の大量処理に向いています。化学熱力学、量子化学、無機化学合成、元素分析、同位体比分析を使いこなして、分離効果の高い交換体を使った効果的化学分離プロセスを研究しています。石川 研究室骨や歯、ウニの殻やヒトデのような生物が生み出す無機固体は、それぞれの部位に適した強度、多孔質のような様々な形態など、ユニークな物性をもっています。これらは生体内や水中といった穏やかな条件で合成されているのですから、本当に不思議なことです。竹内研究室では、これを手本とした水溶液プロセスを用いたり、生物由来の無機物を原料としてセラミックスを調製し、環境浄化材料や人工骨補填剤としての機能を評価しています。例えば、ヒトデから採取した炭酸カルシウムを水溶液中で反応させるとリン酸カルシウム多孔体を調製することができます。合成されたものではなく天然由来の物質を使うからこそ新しいことが見えてくる、その可能性に心躍らせながら日々研究に取り組んでいます。竹内 研究室研究室では、化学の知識だけではなく、時には環境科学や医学、生物の知識が必要になるので、自分の専門分野以外でも躊躇することなく自由に学ぶことを学生たちに勧めています。この経験を通して、卒業後は、どんな問題に対しても自由に発想し、柔軟に対応できる人材として社会で活躍できると期待しています。同位体を分ける自然から学び、生物を手本にして、    環境にやさしい化学を目指す化 学 コ ー ス化 学 コ ー ス

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