文章としては完成した「It’s nervous.」ではあったが,鉄二さんの表情はどこか不安気で,オディ先生のもとへ確認に行くこともなかった。本当に伝えたいことだからこそ,定型文に当てはめていくだけでは満足できない瞬間が出てくるのだと感じた。次の時間,自分が何を一番伝えたいのかに焦点を絞って考えられるよう「鉄二さんが一番伝えたいのはお笑いのどんなこと?」と問いかけた。するとクラスにたくさんのお笑いグループがあること,どのチームも一生懸命やっていること,だからこそおもしろいということを伝えたいのだと話した。伝えたいことがはっきりすると,ALT のオディ先生のもとへ質問に行き,以下のように紹介に使う表現を増やしていった。 二人の留学生との交流会当日,名刺交換の場面で鉄二さんは自分の順番が回ってくるまで落ち着かない様子で自分より先にやり取りする友達をキョロキョロと観察し,みんなに背を向け繰り返し自己紹介文を練習する姿があった。自分の順番が回ってくると,留学生の表情を確認しながらジェスチャーを付けて紹介をした。留学生に「Can you do KARATE? How do you feel?」と質問されると,少し困った表情を見せながらも「One more time!」と伝えた。「Fun? Difficult?」という留学生の言葉に「Yes! It’s fun!」と答えると,大きく頷き,留学生とハイタッチをした。その後駆け足でもう一人の留学生のもとへ行くと,名刺を見せながら「I’m good at KARATE. It’s fun.」と自己紹介をした。 留学生とのやり取りを通じて鉄二さんが「伝わる」を実感するとともに,自分の伝えたい思いにぴったりの英語を獲得した瞬間だったのではないかと感じた。名刺交換の次に行ったお笑い紹介では,原稿から目を離し堂々と紹介を行う鉄二さんの姿があった。 (4)中学校~【教科等の総合化】学びの先にある新たな自分を予感し,確かなものにする~ 12 年間の最終段階である中学校では,社会の入口に立つ中学生が,内在している『3つのよさ』を軸に,各教科で学び,身に付けてきた資質・能力などを総合的に活用・発揮し,自己の学びを自覚的に把握しながら,生きた現実に対峙することができる地球市民に育ってほしいと考えている。 中学校では,このような生徒の学びを支えるために,「子供に内在する『よさ』の再考」を行うとともに,「教科等横断的な視点を取り入れた授業構想や評価の検討」を柱にして取り組んだ。 ⅰ)子供に内在する『3つのよさ』の再考 「自己表現力」「課題探究力」「社会参画力」といった,子供に内在している『3つのよさ』を常に見つめ,更新し続けてきた。また,生徒のどんな『よさ』を生かして単元を構想するかを考えるとともに,活用・発揮される資質・能力の明確化に取り組んできた。 ⅱ)教科等横断的な視点を取り入れた意図的・計画的な授業構想や評価の検討 生徒が教科の枠を越えて学びを深めていくことができるよう,意図的・計画的に授業を構想した。具体的には,内容面,資質・能力面でのつながりをもとにしながら,各教科との連関の仕方を検討してきた。 ⅰ)ⅱ)について,以下に具体を述べる。 ⅰ)子供に内在する「3つのよさ」の再考 まず,本学校園で設定した『3つのよさ』の再考に取り組んだ。具体的には,中学校は『3つのよさ』を各教科等特有の姿で整理し,この更新を図ってきた(別冊資料「本学校園の子供に内在する『よさ』」参照)。また,『3つのよさ』を再考するとともに,それらを軸に,各教科等の見方・考え方を働かせ,様々な資質・能力を活用・発揮する場面を単元展
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