令和5年度研究開発実施報告書
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程で丸刀を使っていた。周囲には,曲線を小刀で削ることに苦労したり,のこぎりで切りすぎて柄が折れてしまったりする子がいた。そんな様子を見比べ,「これ(丸刀)が使いやすい」という思いから丸刀にこだわる『自己表現している』姿があった。また,教師が丸刀を使っている理由を問いかけると,Y児は「カーブの部分が削りやすい」と答えた。ただ「これが使いやすい」だけでなく,「どうしたらカーブの所を上手く削れるか」を考え,丸刀が一番削りやすい,という持論をもって製作する『課題探究している』姿もみられた。そんなY児の削り方について,カーブを削ることに困っている児童が参考のために見に来た。普段は一人でいることが多いY児が,周りから頼られることで嬉しそうな表情を浮かべた。 工程が終盤に差し掛かると,「つぼ」の中を彫り進めるのが思うようにいかず,作業が停滞しがちになるY児がいた。その際,友達から万力にスプーンを固定すると力を入れて削ることができるということを聞き,試しに取り組んでみたところ一気に作業が進んだ。周囲と関わる『社会参画している』姿が増えてきたことは,多面的に捉えることで探究が深まっていくことにもつながったのではないかと考える。 こだわりスプーンの製作を終え,Y児は振り返りに次のように記した。 様々な道具を使い,対象の変化を感じながら製作に取り組んでいたY児。一方で,のこぎりでおおまかな形を切り出したり,厚すぎる部分を削ったりしなかった分,製作にもかなり時間がかかった。子供たちの理想のイメージに近づけるために,こだわりを実現する探究の質を高めていくためにも,どのように製作の見通しを教師が提示していくか,という視点も大切だと感じた。 技術科においてものづくりを行う際,子供たちは「使いやすさ」や「作業の効率化」といった見方・考え方で事象を捉えていた。同じように,子供たちが「つくりたい」という思いや願いをもって製作を行う図工と異なるのは,製作するものは自分や他者が“実際に使う”ための道具であり,ただつくることに楽しさを感じる段階にはとどまらない点だと考える。そこには道具を使う立場としての「快適さ」を追求する必要感があり,それが道具を使う技能を習得したり,道具を使うこと自体に楽しさを感じたりする「技術感」の醸成につながっていると考えられる。子供たちの,こうした技術科ならではの「作りたい」という願いを支え,道具をいかに使って上手くものを生み出せるかという経験を重ねることは,中学校への緩やかな接続のために効果的であるといえる。 【事例②】単元名:「This is my town.」【6年 英語】 6年生英語「This is my town.」の単元では,信州大学へ学びに来ている留学生との交流会を行った。ここでは,町の紹介ではなく,「自分のクラス」の魅力を伝えたいという子供の願いにそって,授業を行った。交流会に向けて,留学生への自己紹介を想定して,名刺を渡して ALT のオディ先生や友達と練習をする活動の中では,本当に伝えたい思いがあるからこそ,留学生は「伝える相手」ではなく「伝えたい相手」となり,その相手に合わせてどんなことをどのように伝えればよいのか,自分の伝えたいことを思い通りに表現できる言葉は何なのかを考え悩む鉄二さんの姿が見られていた。 この単元では,留学生に紹介することを係活動のお笑いと決めた鉄二さん。それまで学習してきた表現を確認すると,自分の発表メモに「It’s happy.」と書き込んだ。しかし,その英語を見ながら「happy って感じでもないんだよね。ネタが完成したときとかウケたときは確かにハッピーだけど,滑ったときとかはさ,違うよね。」と一緒に考えていた俊彦さんに話した。そこで,「その時はどんな気持ちになるの?」と教師が問いかけると,黒板に並ぶ気持ちの表現カードを確認し,「nervous」と答え,次のように書いた。 スプーンを作ろう!で,なっとくするとまではいかなかったけど,いいスプーンができて良かったです。

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