令和5年度研究開発実施報告書
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を尊重しようとし,対象を自分と重ね合わせながら,様々なアプローチで探究を進める姿が見られる。このことから,教師は【教科】ではなく【領域】としての評価規準を設けて授業を実践するとともに,子供たちの姿からそれぞれの【教科】へとつながる見方・考え方の芽生えを捉えてきた。しかし,今年度の実践において,どれだけ対象を「人」や「仲間」として接していても,活動を継続していくうちに,経験によって得られた数値を根拠にした計算をする姿や,根の広がり方を枝葉の広がりや葉脈の形状から推測する姿が見られるようになった。つまり,探究がそれぞれの【教科】の見方・考え方に焦点化される場面が小学2年生でも見られるようになったのである。これは,【かがく領域】から【教科(算数・理科・技術)】へと移ろう段階は,これまで考えてきた小学3年生よりも前である可能性があることを示唆している。したがって,【かがく領域】においては,小学2年生が【領域】から【教科】への接続のタイミングであり,小学3年生においては【教科】という位置づけが妥当であると言える。 【事例③】 題材名:「みんなと彫る わたしの藍染」【3年 くらし領域】 小学校3年生では,昨年に引き続き藍を育てた。今年は去年よりも綺麗な藍色を出したいという願いをもち,藍と関わっていた。その中で出合ったのが「型染」であった。「型染」とは,型となる模様を彫り,その型通りに模様を出す藍染の技法である。それは,子供たちが今まで経験してきたハンカチやTシャツを折ったり輪ゴムで絞ったりして模様を出す『絞り染』や『折り染』とは大きく異なってくる。 この技法はクラスでお世話になっている藍染職人の浜完治さんが藍染を行う際の技法である。クラスで「型を彫りたい」と子供たちが願った時,M 児は「蒅づくりも型を彫るのも絶対失敗したくない」と周りの子供たちが語る中,「浜さんの彫ったふくろうみたいな模様を彫りたい」とつぶやいた。「それは難しいよ」と友だちに言われても「うん,そうなんだけどさ,彫ってみたいんだよ」と M 児は続けた。その理由を尋ねると「浜さんに近づける」と M 児は語ったのだ。浜さんの彫ったふくろうはシルエットとは異なり難しい。光希さんはそのことはわかっていても,難しい模様に挑戦したいのだ。これまで,どこまでも藍のことを考え,浜さんの思いにも触れ続けてきた M 児だからこそ,浜さんの彫る模様が藍色を最大限に生かす模様なのだと考えているに違いない。型を彫るのに失敗したら藍が無駄になってしまうと思いつつも,だからと言って簡単な模様を彫るのは違うと考える M 児がいるように思えた。私は藍色をより生かせる模様を今の私の精一杯で表そうとする M 児だと捉えた。 また,子供たちは自分たちに藍を育てるきっかけをくれた浜さんのことを考えていく中で,日本での藍染の歴史が 1500 年続いていることや浜さんが 50 年以上藍の型染を続けていることを知った。藍染が多くの人によって受け継がれており,浜さんに受け継がれ,その「藍のバトン」を自分たちが浜さんから受け取ろうとしているのだということにも気がついていった。その有り難さや緊張感を感じながら子供たちは型を彫っていった。 このように3年生では,「浜さん」という人を2年生の時と同様,「自分たちに協力してくれる優しい人」という捉えを基盤としながらも,藍染の技術や思いに触れてきたことで「浜さん」という人を「藍染職人としての浜さん」として出合い直してきたように思う。また,子供たちが育ててきた「藍」も植物としての視点だけでなく,歴史や文化的な視点も含まれて「藍」を考えていると言えるだろう。「去年よりも綺麗な藍色が出したい」と願った時,「浜さん」や「藍」を空間的や,時間,相互関係に着目して考えたりするなど,2年生の時よりも多面的に目の前の事象を捉え,自分たちの願いの実現のために動いてきた子供たちがいるのだと考えることができる。

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