環境報告書2025
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エラーバーは標準誤差、アスタリスク(**)はBG11₀₀に対するプ ラ ス の 有 意 差 (**P<0.01 by Studentʼs t-test)を示す。図1  カルシウムイオンおよびケイ酸イオン添加における炭素固定量への影響しくは100ppm、ケイ酸イオンを100もしくは500ppm、カルシウムイオンおよびケイ酸イオンをそれぞれ20および100ppm加えたBG11₀₀培地(20Ca、100Ca、100Si、500Si、20Ca+100Si) をそれぞれに7ml添加し、同様の条件下で振盪培養した。培養中、BG11₀₀培地サンプルの一部は培地交換しなかったが、ほかは1週間に1回、培地交換を行った。3週間後、鞘の厚さ、死滅率、コロニーサイズ、コロニーの炭素含有量を測定した。培地交換を実施しなかったBG11₀₀培地サンプルでは、生育が悪く、死滅率が有意に増加した一方で、培地交換を実施したサンプルでは生育がよく死滅率も低かったことから、これまでに観察された生育不良や死滅は、栄養不足によるものであることが示唆された。カルシウムイオンおよびケイ酸イオン添加の結果、培養3週間で無添加のBG11₀₀と比較して、20Ca BG11₀₀においてバースト率が5分の1に抑えられ、サイズは1.3倍、鞘厚さは1.7倍と有意に増大した。ケイ酸イオンの培地添加によって死滅率に有意差は見られなかったが、BG11₀₀と比較して、100Si BG11₀₀において、コロニーサイズは2.4倍、鞘厚さは3.0倍に増大した。炭素分析の結果、カルシウムイオンおよびケイ酸イオン添加によって、炭素含有量に有意差が見られた(図1)。これはコロニーサイズの増大に伴い細胞数やコロニー内部の多糖が増加したことを示している。以上の結果から、イシクラゲミリサイズコロニーの生育を維持するには、培地成分管理、特にリン酸、カルシム、ケイ酸の濃度制御が重要であることを明らかにすることができた。修士論文 総合理工学研究科生命医工学専攻 土江田 優貴・伊原 正喜(指導教員)環境への取り組み我が国では、肥料の三要素である窒素、リン酸、カリウムを、ほぼ海外からの輸入に依存している。これらの三要素は、土壌に散布されて一部が作物の中に取り込まれるが、残りのほとんどは散逸する。作物に取り込まれても、最終的に下水処理場やゴミ焼却場に流れ着き、結局処分されて、散逸する。よって、窒素、リン酸、カリウムは、毎年輸入されて廃棄されていることになる。循環型社会においては、これらの物質を回収して、食料生産に再利用することが求められる。その回収工程は、低コスト、且つ省エネルギーが望ましい。我々は、藻類を活用した窒素およびリン酸の回収に注目している。藻類は、光合成によって二酸化炭素を固定化して増殖するが、その際、活発に窒素およびリン酸を吸収する。しかも、藻体は魚類などの餌として活用でき、食料に変換できる。むろん、養殖魚から窒素やリンが排泄されるが、それらも藻類もしくはバクテリアによって再回収でき、養殖魚の餌としてアップコンバートできる。このような水系の食物連鎖による食料生産は、物質が散逸することなく、高収率で循環される。しかし、低コスト大規模培養が藻類の課題である。我々は、休耕田などで低コスト・大規模栽培可能な藻類 と し て、 陸 生 窒 素 固 定 シ ア ノ バ ク テ リ ア で あ るNostoc commune(イシクラゲ)に注目している。イシクラゲは単細胞生物であるが、一列につながった糸状体として増殖し、多糖からなる鞘を持つ数センチの巨大コロニーを形成する。このコロニーには乾燥耐性があり、過酷な自然環境でも生育できる。コロニー内のイシクラゲ細胞は、ある条件下で、運動に特化したホルモゴニアと呼ばれる細胞群体に分化し、コロニー外に拡散する。天然条件では、ホルモゴニアは約1週間で鞘を持つ次世代コロニーを形成し、その後、数センチサイズへ増大する。しかし、研究室においては、数ミリまで増大した後に死滅することが多く、今回この課題の解決に取り組んだ。長野県伊那市で採取したイシクラゲコロニーからホルモゴニアを放出させ、1/2BG11₀₀培地内で、25℃、50 µmol photons・m-2・s-1光条件下で培養した。成長した1~2ミリサイズのコロニーを直径50mmシャーレに10個入れ、BG11₀₀培地、およびカルシウムイオンを20も1919Nostoc commune ホルモゴニアからのミリサイズコロニー形成環境条件の究明2-1 環境教育修士論文・卒業論文02

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