統合報告書2025
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ビジョンと経営戦略活動実績ガバナンス人と地域の資産財務情報堂免・久富研究室による光触媒を用いたグリーン水素製造システム信州大学 学術研究院(超学系)久富 隆史 教授水分解反応が実証されましたが、活性は低いものでした。しかし、近年の研究によって量子収率は90%を超え、紫外光応答光触媒としては理想的なレベルまで性能が向上しました。― そ の 中で 、久 富 教 授はどういった研究をされていますか。高効率な光触媒材料ができても、技術の社会実装に向けて、生成物から水素を回収する方法や、光触媒の粉末を大面積に展開する方法なども研究する必要があります。我々の 研 究 ユニットでは、光触媒の粉末をパネル化して、それを大面積に展開するアプローチを研究しています。これまでに、光触媒粉末を固定した25㎝角のパネルを1600枚並べ、100㎡の受光面積をもつ大規模なシステムの開発を行っています。さらに我々は、飯田市の協力のもと約5000㎡の用地を利用して、より大規模な光触媒を用いた水素製造システムの実証事業を進める計画です。―一方で、技術の社会実装には課題もありますか。いくつかあります。まず、光触媒の太陽エネルギー変換効率はまだ十分とは言えず、5%信州大学は光触媒を用いた水分解反応の分野で最先端の技術を有しており、この数年間で大きな進展を成し遂げました。実用化にはまだ多くの課題が残されていますが、地域実証タウンを通じてこれらの課題の解決に向けて取り組みながら、持続可能なエネルギーシステムの構築を目指していきたいと考えています。以上に向上させることが 必 要で、可 視 光 応答性光触媒の高効率化 に取り組んでいます。また、グリーン水素を安価に供給できるようにするには、反応器のコストの削減も課題と言えます。従来の化石燃料に代わる新たなエネルギーが求められる中、人工的に水素を製造する研究が進められています。しかし、現在製造されている水素の多くは、CO2の排出を伴うものが一般的で、CO2の排出を伴わない「グリーン水素」を効率的かつ大規模に製造していくことが求められています。こうした中で、信州大学アクア・リジェネレーション機構の堂免・久富研究室では、水中に設置した粉末状の光触媒に太陽光を当てて水分解反応を起こし、水から水素を取り出すという水素製造システムを研究しており、この分野で世界のトップランナーと言えます。堂免・久富研究室の堂免一成特別特任教授が、2024年9月に「クラリベイト引用栄誉賞」を受賞しました。これは世界の学術研究において極めて影響力のある研究者に贈られる栄誉であり、受賞者は将来のノーベル賞の候補としても注目されています。また、同研究室の久富隆史教授は、文部科学省科学技術・学術政策研究所による『ナイスステップな研究者 2024』に選ばれました。これは日本の科学技術イノベーションに大きく貢献し、多様な分野で活躍する研究者に贈られるもので、過去の選定者には、その後にノーベル賞を受賞された研究者もいます。活動実績研究CO2を排出しない水素エネルギーの実用化へノーベル賞につながる賞を相次いで受賞Integrated Report 2025 Shinshu University―近年、久富先生の研究分野と関連する「水素」への社会的な関心が高まっています。再生可能エネルギーの重要性が高まる中、水素は貯蔵可能なエネルギーキャリアとして注目を集めています。また、水素は化学工業における重要な原料であり、プラスチックやアンモニアといった多様な製品を合成する基盤となっています。水素の製造において、光触媒を利用した水の分解反応が注目されています。この反応は太陽エネルギーを利用して水から水素を生成するもので、「人工光合成」の基盤技術と位置づけられています。この分野は世界中で研究が活発化しており、我々の研究ユニットでもグリーン水素製造を目指して、高性能な光触媒材料やシステムの開発に取り組んでいます。光触媒材料については、チタン酸ストロンチウムが注目に値します。この材料は1980年に19INTERVIEW持続可能なエネルギーシステムその構築を目指す粉末光触媒水素製造システムでグリーン水素の実用化へ02

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