統合報告書2025
18/60

中央アルプスでの復活事業が行われているニホンライチョウ自然史実習の一環として中央アルプスで行うフィールド教育の様子信州大学 学術研究院(理学系) 副学長(広報、学術情報・附属図書館担当)東城 幸治 教授Integrated Report 2025 Shinshu University豊かな山岳環境に恵まれた信州。しかし、せっかくこうした地で生物学を学びながら、高山帯の動植物を観ることもなく卒業していく学生が多くなっている―。私が所 属する理 学 部 生 物 学コースの教員間で、こうした実情を懸念する声が高まっていました。そこで、以前に実施していた学部生対象の「自然史実習」に、高山帯のプログラムを新たに追加し2024年からリニューアルして再開しました。同実習は、信州の豊かな自然を舞台に、学生が自分の目で動植物を観察することで、その多様性や自然環境との関わりを、深く理解してもらうことを目的としています。また、分類学や生態学、多様性生物学についての調査・研究法をフィールドを舞台に実践するという目的もあります。2024年の実習では、農学部が管理運営する西駒ステーションを拠点として利用させていただき、演習林内での実習に加え、中央アルプスの中岳(2,925m)や駒ヶ岳(2,956m)にも登り、高山帯の動植物を観察することができました。そのなかで、絶滅が危惧され、保護活動が行われている「ニホンライチョウ」の親子が姿を見せてくれました。ちょうど、その復活事業について解説しながら登りましたので、実態の一部が観れたことは、学生にとって貴重な体験になったのではないでしょうか。また、高大連携事業の一環として高校生の参加も受け入れました。県内及び奈良県の高校生3名から申込みがあり、とても楽しんでいただけたようですし、学部生にとっても良い刺激になったようです。地球上のあらゆる生き物たちは、それぞれの種が単独で生活しているわけではなく、互いに影響し合いながら、複雑な関係性を構築して生活しています。また、生物だけでなく、生活圏の環境そのものの影響も強く受けながら生活しています。「自然史実習」では、その実態を自身の五感を用いて体感し、それによって深い理解へと結びつける力を身に付けてほしいと考えています。また、教科書で解説されているような現象を、実際の現場での観察と関連づけながら理解を深め、その成果を自身の言葉で発信できるようになってほしいと思っています。生じている様々な課題について理解を深めたり、そうした課題に対して科学的思考で対 処するといった素養も、自然史実習を通じて身に付けることができるのではないかと期待しています。さらに、地域の生態系で信州大学の教育目標は、かけがえのない自然を愛し、人類文化・思想の多様性を受容し、豊かなコミュニケーション能力を持つ教養人であり、自ら具体的な課題を見出し、その解決に果敢に挑戦する精神と高度な専門知識・能力を備えた個性を育てることです。こうした目標を具現化するため、特色ある教育プログラムを実施しています。その一つが、理学部の「自然史実習」等に見られる「自然環境から学ぶフィールド型の教育」です。前身の長野県師範学校や旧制松本高等学校の時代から、他県にはない山岳環境の大自然を活かした実践的な教育が行われてきました。このほかにも、学部を越えた独自の共通教育という点にも本学ならではの特徴があります。全学部の1年生は全員が松本キャンパスの全学教育センターに集い、共通教育科目を受講します。また、専門分野を超えた知や分析視点を獲得し、学術に対する深い理解と経験を養う機会を提供する「全学横断特別教育プログラム」も設けています。同プログラムを通じ、実践学習によって地域・国際社会の課題を実感するとともに、様々な人のつながりを構築し、持続可能な発展や経済・社会と関連する環境分野、地域社会やグローバル社会の未来を創造する高度キャリア人材の育成を目指しています。自然環境から学ぶフィールド型の教育中央アルプスに登り高山帯の動植物を観察全学部横断教育で高度キャリア人材を育成五感を使って体感し深い理解へ結びつけるMESSAGE16Shinshu University Integrated Report 2025豊かな高山帯の動植物を観察して、深い学びを得てほしい山岳環境などを活かした特色ある独自の実践教育に強み

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る