2022 年 3 月に発行された新たな中絶ケアガイドライン(左)と中絶サービスを提供する医療者が避けるべき行動が記載されたインフォグラフィック(右)(出典:WHOホームページ) モロッコの同僚達と。海外活動もSRHR に関する課題について考えるきっかけとなりました。卒業研究の学内発表会の様子。それぞれが取り組んだ研究の成果を緊張しながらも自信と達成感をもって発表している。保健師コースの学生が実施した健康学習会(減塩について)。中絶ケア研究は全国の助産師を対象にオンラインインタビュー調査を実施しました。新任期の保健師を対象にした研修会。佐藤 優香 助教信州大学医学部保健学科看護学専攻卒業、同大学院医学系研究科修了 ( 看護学修士 )。助 産 師 とし て 病 院 勤 務 やJICA 海外協力隊 ( モロッコ )での活動を経て、2023 年に信州大学に着任。五十嵐 久人 教授山梨医科大学医学部看護学科卒業。同大学院医学系研究科修士課程修了。山梨大学大学院博士課程修了(看護学博士)。2007 年に信州大学医学部保健学科に着任。います。 『Sexual and Reproductive Health and Rights(SRHR)』という言葉を知っていますか。日本語では、『性と生殖に関する健康と権利』と訳され、安心して性生活を営むことができ、妊娠・出産・人工妊娠中絶に関して身体的・精神的・社会的に本人の意思が尊重され、それらに関わる情報と手段を享受できる権利のことを意味します。 「産む」「産まない」どちらの選択も SRHR の視点から尊重され、新しく豊かな人生が歩めるようにケアが提供されるべきですが、日本では「産まない」選択をした女性へのケアは十分とは言えません。現在は、SRHR の中でも人工妊娠中絶に焦点を当て、女性に関わる専門職である助産師が介入しうる質の高いケアについて研究しています。 健康になることが人生のゴールではありません。その人らしい生活を通して、QOL 向上を実現することにあり、健康はそのための手段の一つです。その QOLには、ストレスや生活習慣、主観的な健康観など様々な要因が関係しています。近年は格差社会と言われ、賃金格差だけでなく、健康格差も大きな問題となっています。そのような厳しい生活環境の中、人々の QOL が、ストレス、生活習慣などとどのように関連しているかについて研究しています。また、健康を支援する保健師の実践能力向上に向けた教育プログラムの研究・開発にも取り組んで―15 ―研究から広がる未来卒業後の未来像研究から広がる未来卒業後の未来像母性看護学・助産学公衆衛生看護学 「産まない」選択をした女性の多くが「意図しない妊娠」を経験し、その背景には、性教育の不足や避妊の選択肢の不足、同意なき性行為や性暴力など、様々なSRHRをめぐる課題があります。これらの課題解決に向けては、保健医療分野だけでなく、教育や福祉、ジェンダーなど多分野と協働し、分野横断的なアプローチが必要です。すべての人がいつ、どこにいてもSRHRを享受できる社会、支援体制の構築を目指しています。 「Think Globally, Act Locally. Think Locally, Act Globally.」という言葉があります。課題をグローバルな視点で考え、地域で行動を起こしていくこと。地域での経験を活かし、世界を変えていくこと。これらを実践する医療職を一緒に目指していきましょう。 WHOは「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」と定義しています。世の中には大きな病気を持ちながらも生き生きと過ごし、QOLの高い方も多くいます。QOLの研究は、健康とは何かを考え、その人らしい人生を過ごすための基礎となるものです。 保健師は対人援助職として、多くの困難に直面しますが、はじめから一人で解決することは難しいので、抱え込まず、誰かに相談する。そして、専門職として、常に疑問を持ち、根拠を探求する姿勢を持ちましょう。看護学専攻小児・母性看護学領域看護学専攻広域看護学領域「産む」「産まない」どちらの選択も尊重される社会を目指してその人らしい健康的な生活を実現するための要因を考える
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