理学部研究紹介2024
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宮原 研究室笠原 研究室研究から広がる未来卒業後の未来像研究から広がる未来卒業後の未来像宮原 裕一 教授東京理科大学大学院薬学研究科博士課程修了後、科学技術特別研究員、国立環境研究所研究員を経て、現職。専門は環境化学(人為起源の化学物質の動態解析)笠原 里恵 助教鳥類学�河川生態学。東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了後、一般財団法人、NPO法人、立教大学、弘前大学などでの経験を経て、2019年から現職。諏訪臨湖実験所では、1977年から諏訪湖の水質�生態系の定期観測を行っています。長期にわたる観測値を解析することで、諏訪湖では、水中の窒素�リンといった栄養塩濃度の減少により透明度が改善し浄化の過程にあることや、底層の溶存酸素濃度の減少が水温上昇にともなう湖水の鉛直循環の抑制によって生じていることが明らかとなってきました。諏訪湖で生じている様々な事象は、諏訪湖集水域の環境の変化や、地球規模での環境変動と密接に関わっています。そこで、データロガーを用いた連続観測を行い湖の環境変動を詳細に把握するだけでなく、集水域を含めた栄養塩や水の物質循環、水質と密接な関係にある湖底堆積物の性状、そして、湖内に生息する生物を支える一次生産量の把握など、諏訪湖の環境の変化やそのしくみについて研究を行っています。最近、諏訪湖のリアルタイムモニタリングデータのHPでの公開も始めました。水が人間の生活に不可欠であるがゆえに、河川や湖沼などの水辺生態系は、歴史的に人間活動を優先して改変され、そこに棲む生き物の生活はなかなか考慮されてきませんでした。近年は生物多様性という言葉が社会に浸透し、人々の求める「豊かさ」が物質的なものに限らず、精神的なものにも広がってきたことで、水辺の環境保全や生物多様性の維持�向上にも目が向けられるようになりました。将来に向けての人間活動と生き物の生活の折り合いや、自然の再生�維持を考えるうえで、各種の生態や必要とする環境、生き物同士の関係などを理解することは重要です。長野県を流れる千曲川などの河川や、諏訪湖�木崎湖などの湖沼などをおもなフィールドとして、鳥類を対象に営巣�採食環境や食物網、また渡り経路や遺伝的な側面からの研究を行っています。生きた鳥以外にも、剥製を対象に、過去の遺伝情報にも興味を持って研究を進めています。全国の指定湖沼11のうち、諏訪湖は水質が改善傾向にあるトップランナーであり、その水質や生態系の変化が注目されています。所属の学生とともに45年余にわたって蓄積された知見は、我が国に数多くある水深の浅い富栄養湖の将来予測をするうえで重要な知見となります。また、冬期の御神渡り(全面結氷)の減少や、夏期の水温成層にともなう貧酸素層の拡大は、地球規模の環境変動の影響とも言えます。これら諏訪湖の情報を発信することで、地域の環境保全への取り組みを応援して行きたいと考えています。卒業生の就職先は多岐にわたっています。なかでも環境分析の技術を活かし活躍している卒業生が数多くいます。学会等で、卒業生と再開するのを楽しみにしています。鳥類は生態系の中で高次の捕食者であり、環境との結びつきの強さ、そして変化に対する応答の早さから、しばしば環境指標に用いられます。その基本的な生態や環境選好性の把握や、人為的な水辺環境の改変や外来生物などによる生物相の変化から受ける影響、また遺伝的な特徴の理解は、地域の水辺生態系の現状評価を可能にし、希少種の保全だけでなく、生物多様性の保全や向上にもつながります。また、人間活動と軋轢が問題となる種では、研究を通して、対応を検討するための情報を得ることができると考えています。研究室の学生は、地域の研究者や行政などとも協力しながら研究を進めます。得られた知見は、地域の生物多様性の理解や維持、対象種の保全などに貢献しています。卒業�修了生の進路は進学から就職まで様々ですが、多くは環境や生き物に関わる分野で活躍されています。31春(3-5月)、夏(6-8月)、秋(9-11月)の平均値と標準偏差を示したもの。夏の透明度の改善が顕著。クラウドファンディングにより「すわこウオッチ」を製作し、水質観測を行っています。鳥の巣というと、草を編んだものや木の枝を組んだものを想像しがちですが、砂礫地の地上にも小石でできた巣があります(写真では卵が4つ並んでいます)。雛に食物を運ぶオオヨシキリ(左)とカワセミ(右)。センサーカメラやビデオカメラを使って、鳥たちの日常を理解するためのデータを集めます。図 諏訪湖透明度の変遷(1977年から2021年)写真 諏訪湖に浮かぶリアルタイムモニタリング装置理学部附属 湖沼高地教育研究センター諏訪臨湖実験所理学部附属 湖沼高地教育研究センター諏訪臨湖実験所諏訪湖を覗けば何が見える?鳥の生活/人間活動との関係

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