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研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例 毎日、私たちの周りには、犯罪に関する報道が溢れています。犯罪者が逮捕され起訴されて、そして刑務所に送られることにより、犯罪事件が解決されると思われがちですが、これだけで足りるでしょうか?確かに、犯罪者に対して、その犯罪行為に相応しい制裁を与えることは重要ですが、彼らが刑罰を受けたあと、いずれ社会の一員に戻りますので、彼らを再犯させないように、しかるべき対策を取るなどの工夫が必要です。そして、犯罪は、事後的処理ではなく、できるだけ事前的予防を図ることも重要であって、加えて、犯罪被害者に対しても、私たち社会全体が、その立ち直りを支援しなければなりません。このような刑事司法のテーマについて、考察・研究しています。呉 柏蒼 講師台湾台北大学法学部法学研究科修士課程(刑事法専攻)修了、慶應義塾大学法学研究科後期博士課程公法専攻修了。博士(法学)。慶應義塾法学研究科助教(有期・研究奨励)、帝京大学法学部法律学科非常勤講師などを経て現職。 世の中には、独力ではなく、チームを作り、他者と協力する方が大きな成果を上げられることがたくさんあります。しかし、チームの形成や維持には、チームに属する人たちが満足できる「公平さ」が必要です。「公平」と一口に言っても、その意味は状況によって異なります。例えば全員がチームに同じだけの貢献をしているとしましょう。この時、成果を全員に同じだけ分け与えても不満を抱く人はいないでしょう。一方、人によってチームへの貢献が異なる時に成果を均等に分けると、貢献の大きい人は不満を持つことが想像できます。私の研究では、チームを形成、維持するために必要な「公平な」成果の分け方を追究しています。篠田 太郎 助教2017年3月に早稲田大学大学院経済学研究科修士課程を修了。2020年4月より同大学政治経済学術院助手を経て、2022年9月より信州大学社会基盤研究所の助教に着任。専門は実験経済学とゲーム理論。趣味は中学生の頃から続けているチェス。 日本は、諸外国に比べ犯罪が少なく、安全な国として認識されています。しかし、著しい高齢化がもたらす犯罪コントロールへの影響や少数の再犯者が多数の犯罪を起こしてしまうなど、政策的課題が数多く存在しており、犯罪の少ない社会づくりの探求には終わりがありません。 これらの課題を考えるときに、犯罪と刑罰の内容を定める刑法と、犯罪を追及するための手続を定める刑事訴訟法を基礎にして、犯罪学や被害者学など学際的学問を活用しつつ、統計数字を根拠にしなければなりません。一見難しそうですが、マクロ的視点から問題を捉え、ミクロ的視点で解決案を探ることで多角的思考を促すことにつながり、実は面白いことです。さらに、制度面について、海外の法制度と比較する手法も欠かせないので、国際的視野を養うこともできます。 このような学問を学ぶことは、社会人としての知性の形成に役立ち、公的部門への就職は勿論、情報の収集・分析や戦略の策定が必要とされる民間企業でも転用できますので、卒業後は各分野で活躍できるはずです。 上述したチームの形成と分け方の問題は「協力ゲーム理論」という分野の分析対象です。上の例では個人がチームを作っていましたが、協力ゲーム理論が分析対象とする状況は幅広く、必ずしも個人にとどまらず企業や国がチームを作る場合もあります。チーム内の全員が納得できる分け方は、ありとあらゆる場面で重要な問題です。実験経済学は、経済学の中では比較的新しい方の分野ですが、協力ゲーム理論を扱う実験はその中でも特に新しく、明らかになっていないことがまだまだたくさんあります。 「全員が納得できる」ことの重要性は、近年ますます高まっています。それを追究することは、弱者やマイノリティを無視するのではなく、手を取り合って進む「多様性」にも通じるところがありますし、短期的な繁栄ではなく継続的な豊かさを求める「持続可能性」にも通じます。協力ゲーム理論に触れる中で「公平さ」とは何かについて考え、様々な立場からの見え方を捉えられるようになって欲しいと思っています。7日本被害者学会において、犯罪被害者の損害賠償請求の実現について発表を行い、制度の在り方について、学会にご臨席された先生と議論しました。・ 受刑者の円滑な社会復帰を図る仮釈放制度の要件やその許可の判断基準について、比較法的検討を行っています。信州大学経法論集第13号(2022年)1頁以下拙稿掲載。・ 犯罪被害者の損害賠償請求の実現に対する支援について、研究論文を公刊しました。被害者研究31号104頁以下(2022年)。フランス、エコール・ポリテクニークでの研究発表〇 交渉実験:被験者は3人1グループとなり、チームの形成と、そのチームでの成果の分け方を交渉する。3人チームを形成するグループと、2人チームが形成されるもしくは全員がバラバラになるグループとの違いについて、様々な角度から公平な分け方とは何かを追究する。〇 招待ゲーム実験:チームに所属するか否かを被験者が回答するとき、同時に回答する場合と順番に回答する場合で、どちらがより良い結果を導くかを調査する。・刑事政策には、犯罪の予防、犯罪者の適正な処罰と社会復帰及び再犯防止、そして、被害者の立ち直り、という三つの目的があります。究極な目的は、犯罪の少ない安全な社会の実現です。 応用経済学科応用経済学科犯罪と刑罰、そして、犯罪被害者について、私たちはどう考えるべきでしょうか?協力の形成、維持に必要な「公平さ」を探す

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