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研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例 金融論を専門として、とくに経済における貨幣や金融仲介の機能を明らかにする分野(貨幣経済学)の理論的研究を行っています。経済には金融システムと呼ばれる資金の受け払いや貸し借りを行う仕組みが内在しており、この金融システムは経済活動の実体面と深い関連があることが知られています。そして、中央銀行や金融監督当局は日々さまざまな政策を駆使して金融システムを管理・調節しており、その影響は実体経済にも波及していると考えられています。研究では、人々の経済的厚生の観点からみて、中央銀行や金融監督当局がどのような政策手段(金融政策・金融規制)を実施するべきなのかを理論的に明らかにすることに取り組んでいます。ウェステニウス 嘉晃 講師2014年名古屋大学経済学部卒業。2020年名古屋大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。松本大学大学院総合経営研究科専任講師を経て、現在の職に至る。 経済学の中の一分野として、政府の公共政策に関する問題を扱う「公共経済学」が専門分野です。特に家計の税・社会保険料の計測や、税制による再分配効果(所得格差是正の大きさ)の評価などについて、データを用いて分析しています。こうした取り組みでは過去や現在における税負担の実態を捉えるばかりでなく、家計収入などのデータに現実の税制を適用して税額を推計することで、将来の税制変更が家計の税負担に及ぼす影響を試算することもできます。政府はデータを利用した「証拠に基づく政策立案(Evidence-Based Policy Making, EBPM)」を推進していますが、経済学に立脚したデータ分析はこうした「証拠に基づく政策立案」に貢献しています。大野 太郎 教授2001年一橋大学経済学部卒業。2008年一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。尾道市立大学准教授、信州大学准教授を経て、2020年より現職。2022年から2024年までは財務省財務総合政策研究所へ出向。 中央銀行や金融監督当局はさまざまな政策を駆使して、金融システム全体の安定を図っています。そして近年では「マクロ・プルーデンス政策」と呼ばれる、金融システム全体の安定性を確保するための新たな政策の立案やその有効性に注目が集まっており、学界においても活発な議論が行われています。研究では、数理モデルの解をコンピューターを用いた数値計算で求めるアプローチを活用して、望ましいマクロ・プルーデンス政策に対する新たな知見を獲得していくことを目指します。 講義(とくに演習)においては、学生のみなさんは金融論のトピックスのなかから(1)取り組む問題を適切に設定し、(2)問題を明らかにするために経済学の理論を応用して、そして(3)自らの主張を論証してわかりやすく提示する能力を獲得していきます。経済学・金融論の学修を通じて養成されるこれらの問題設定・問題解決の能力を身につけた人材は、金融業界のみならず、複雑化が加速する現代の幅広い業界においてリーダーとして活躍することが期待されます。 今日、「証拠に基づく政策立案」が強調される背景には、PCの能力向上やビッグ・データの蓄積が進んでいることも挙げられます。政府はそうしたデータの蓄積を多くのユーザーで利活用できる環境を進めたいとしています。こうした環境変化から、これまで捉えることができなかった新たな証拠(エビデンス)が発見され、新たな政策提案につながることが期待されています。 学生もゼミナールでの研究活動において、政府統計をはじめとする様々なデータを利用し、国や地方自治体が実施する政策について実態の把握や効果の検証を行い、現行制度の課題と今後のあり方について検討しています。卒業後の進路は民間企業や公務員など様々ですが、データを用いてエビデンスを積み上げ、新しい提案を行うという経験は、どのような進路に進む際にも卒業生の力になるはずです。6信用収縮が発生する経済の様子の時間的推移について(1)金融機関への規制を実施する場合(実線)と(2)実施しない場合(破線)の比較(コンピューターによる数値計算)・金融機関に対する規制の有効性に関する理論的研究 金融機関に対する規制の実施が、経済において金融機関による資金供給が連鎖的に縮小する現象(信用収縮)を緩和する効果を理論的に分析しています。数理モデルを用いた分析から、規制の実施が信用収縮時における資金供給の減少や不動産価格の下落の程度を緩和することを示唆する結果が得られています(上図)。上の図は、所得階層別に見た家計の税・社会保険料の負担率(対所得比)を表している(2019年時点)。所得階層が高まるほど負担率は高いが、低所得層でも社会保険料の負担が大きい。・ 家族構成や収入などのデータに現実の税制の仕組みを適用して、世帯ごとに税額を推計します。こうした手法を利用すると、家計の税負担について実態を把握するだけでなく、導入前の諸政策が家計の税負担に及ぼす影響もシミュレーションすることができます。・ 税を通じて、家計の所得格差がどれくらい是正されるのか(再分配効果)も計測できます。税制における個別の仕組み(税率や各種の減税措置など)が再分配効果にどれくらい重要な役割を果たしているのかも分かります。応用経済学科応用経済学科理論的なアプローチによって望ましい金融政策・金融規制を考えるデータを用いて税制の実態を明らかにし、これからの税制のあり方を提言する

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