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研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例 私たちは、これからどのような場所を選んで、人生を過ごすことになるのでしょうか。人口密度が非常に高い100万人以上の都市でしょうか、あるいは30万人以下の中小規模の都市でしょうか̶̶これを考えるためには、これからの都市や地域の変化を視野に入れる必要があります。すでに情報通信技術の発展は、人々の暮らしの場所選びに新しい可能性を開いています。パソコンとネットがあれば、場所の制限を受けずに働くことができ、余暇を楽しめる多様な生き方が増えてきています。 私たちは、多くの都市や地域で、急速に人口が減少する局面に立たされています。人類が創造した最高傑作と言われる都市とそれに欠かせない周辺地域、これらは今後更なる変化を遂げることが予想されます。 李研究室では、人文地理学という学問分野に立脚して、人々の暮らしの場所や地域に関するテーマを幅広く研究しています。 研究室が挑む社会問題のひとつは「健康寿命を延ばし、高齢者の孤独死を防ぐにはどうすればよいか」。私たちは、この問題の解決方法のひとつとして“つながりと笑顔がある地域づくり・関係づくり”を研究しています。 “誰もが、住み慣れた家で、地域で、自分らしく安心して暮らし続けること”は、私たちが望んでいるふつうの幸せです。しかし今の私たちは、ふつうの幸せを達成するのが難しい時代を生きています。その背景にあるのが人口減少と少子高齢化の同時進行です。 ふつうの幸せを保障するしくみのひとつが「社会保障」です。しかし経済成長と人口増加を背景に作られたしくみのために、この社会問題を根本から解決できません。私たちはコミュニティヘルスを手がかりに、この問題の解決方法を探っています。井上 信宏 教授1998年3月に東京大学大学院経済学研究科を修了、同年4月に信州大学経済学部に着任。2011年9月から教授。専攻は社会政策、社会調査。現在、コミュニティヘルスに注目して、人口減少・高齢社会における持続可能な地域づくり・関係づくりを研究している。李 賢郁 講師2009年3月、東京大学大学院総合文化研究科修了(博士)。三重大学特任研究員、韓国・梨花女子大学研究教授等を経て、2023年6月、信州大学経法学部に着任。若年層の移動をはじめ、国際人口移動と地域社会の変化に関する研究を手がけている。 李研究室では「現場に足を運び、その地域を知る」ことに力を入れています。 少子高齢化によって都市空間や地域は大きく変貌しています。この空間的調整は人々の暮らしに影響を及ぼしながら、人々もまたよりよい暮らし、住みやすい環境を作り出すために都市空間や地域に対して新しい挑戦を続けています。 日本を含む先進諸国では、新たな構成員として外国人を数多く受け入れるようになっています。こうした多様化が進む社会にあっては、都市空間や地域で新しい文化を育み、豊かな社会へと変貌を遂げるための研究が何よりも欠かせません。 そのために研究室では、フィールドワークを通じて地域社会の変化を正確に把握、地域課題を分析し、持続可能な暮らしの場や魅力あるまちづくりを考えます。それに備えて、ゼミ生はフィルードワークに必要となる地域調査法を学ぶと共に、地域に入って調査を重ねながら、そのスキルを身につけます。 地域調査の基礎を身につけ、フィールドの中で培った課題解決に向けた実践力を強みに、研究室の卒業生は、基礎自治体をはじめとして、企業やNPOなど幅広い現場で活躍することが期待されています。 私たちの研究の軸足は「社会政策」と「社会調査」にあります。 社会政策とは、個人の力だけでは解決ができない社会問題を解決するための公共政策です。社会保障、社会福祉、健康政策、生活問題、地域づくり、教育、ジェンダー、労働などのテーマ群から成り立っており、高齢社会問題、格差社会と貧困問題、健康格差、各世代の生きづらさなど、現代的な社会問題の解決を図るための政策科学です。 研究室(ゼミナール)では、社会政策の考え方を身につけ、解決すべき社会問題を選び出し、その問題の背景を社会調査の手法で科学的に分析し、解決に向けた政策提言を導き出す研究をしています。 私たちが注目するコミュニティヘルスとは“自分で生き方を選ぶ自由が認められている”社会関係のなかで、“客観的にも認められる健康な状態で生活を送る”ことができる地域社会を創り出すことにあります。 研究室の卒業生は、市町村自治体の職員、NPOの職員として、政策提言に向けた基礎調査や地域づくりに主体的に取り組む仕事に就くことが期待されています。5ゼミナールでは研究テーマを選んでグループワークを重ね、研究成果を専門家や住民のみなさんの前で発表します。写真は認知症研究の発表風景で、行政職員や保健師、社会福祉士のプロフェッショナルの皆さんからコメントをいただきました。研究成果を社会実装することもゼミナールの研究のひとつです。理論で得られた成果をわかりやすく地域活動に活かす作業は、研究同様に大切なプロセスです。写真は松本市城北地区の高齢者サロンの場を借りてクリスマス会を企画・運営したときのものです。 これまで長野県松本市や上田市、伊那市などと協力して、“つながりと笑顔がある地域づくり”の実践研究を重ねてきました。これは、住民の生活圏に行政職員や医療・介護・福祉の専門職、地域住民と協働で「地域包括ケア」と言われるコミュニティヘルスのある地域社会を創設する取り組みです。この取り組みには、研究室の学生も参加しています。 現在では、長野県下の自治体や社会福祉協議会、ソーシャルワーカーなどの専門職の協力を得て、未来人の視点で持続可能な社会システムを創り出す「フューチャー・デザイン」を社会実装するための研究を実施しています。花卉生産者と地域住民の交流会(左)松本市内のコワーキングスペースでの利用者調査(右)研究室を運営する李は、これまで「若年層の移動パターンの多様化と地域活性化研究」や「国際労働移動の特徴とアジア社会における外国人受け入れと社会変容」といったテーマで研究を行ってきました。応用経済学科応用経済学科コミュニティヘルスの地域づくり・関係づくりから持続可能な社会システムを考えるあなたにとって、魅力のある都市・地域はどこですか。

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