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ACBD研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例 現代の経済では、目に見えず、手で触れることもできない「もの」、たとえば創作活動の産物(著作物)それにブランドなどの価値が重要になっています。『鬼滅の刃』がパクられず、作者が大金持ちになるのは著作権法、メッセンジャーRNAワクチンの発明により無名のベンチャーが世界的な医薬品企業になったのは特許法、「エルメス」のバッグに大金を払うのは、営業標識法(商標法)に関係します。無形の「もの」の何を「財産」として扱い、どのように扱うのかを議論するのが、知的財産法です。 この分野を勉強すると、現代経済の最先端を法の側面から観察することになります。経済の変化に伴い、法律も毎年のように変わります。法を変えることで社会を変える「ルール形成戦略」というのも重要になります。玉井 克哉 教授(東京大学教授兼任)1983年東京大学法学部卒、同年東京大学法学部助手、1988年学習院大学助教授、1990年東京大学法学部助教授、1997年東京大学先端科学技術研究センター教授。この間、ドイツと米国に留学。2013年弁護士登録。2016年から信州大学教授を兼任。 私の研究分野は、会社をめぐる利害関係者(経営者、株主、債権者)の間に生じる利益衝突について規律する会社法です。特に、上場会社の完全子会社化やマネジメント・バイアウト(MBO)といった、買収者と対象会社の株主の利益が大きく衝突する企業再編の場面に関心を持っています。 私の研究では、諸外国の法ルールと、隣接諸科学の知見をもとに、制定法(上場規則などのソフト・ローも含みます)、裁判所、企業買収の当事会社の間の効率的な役割分担のあり方を探求しています。こうした視点からの分析は、法ルールとクリエイティブな活動の関係性を検討することでもあり、その他の場面にも応用できると考えています。寺前 慎太郎 准教授同志社大学法学部卒業、同大学院法学研究科博士前期課程修了(修士〔法学〕)、同博士後期課程退学。2015年4月より信州大学講師、2020年10月より現職。個人ウェブサイトhttps://sites.google.com/site/steramae3/ この分野は、①ビジネスで使われるマークやシンボルを扱う営業標識法(商標法)、②技術的創作(発明)にを扱う特許法、③文化的創作活動の成果を扱う著作権法、④価値ある非公知情報を扱う営業秘密法に分かれます。①では経済のグローバル化、②ではネットワークの進展、③ではバイオテクノロジーやコンピュータといった新興分野、そして④では、経済安全保障の最前線である技術流出問題がホットなトピックを提供しています。 それそれの分野でほとんど毎年のように法律が変わりますし、知財高裁という特別な裁判所が設置されていて、新たな問題に対処する法理を裁判所も創造しています。最先端の問題に対処するために適切なルールを形成していく戦略が重要となるのです。そのためには、(i)米国、欧州、中国などとの連携や競争(制度間競争)が重要になるので、国際的視野が欠かせません。(ii)科学技術の発展が大きな要素となるので、その最先端への目配りも必要です。(iii)経済や国際政治の動向も深く理解せねばなりません。難しく、面白い分野です。 会社法は、主に、株式会社の設立、運営に関するルールを規律するものであり、その良し悪しが日本企業の業績に直結することもあります。そのため、会社法の研究では、会社関係者の利益を保護することと、効率的な会社経営を阻害しないことという、2つの要請に応えられる仕組みを常に考えなければなりません。もっとも、これらの要請は相反することも多く、両者をうまく調整したルールを形成・発展させることが、この研究分野における最大の課題の1つといえるでしょう。 近年では、こうした課題の克服のために、経済学、統計学などの手法が頻繁に利用されています。初学者に対するハードルは高まる一方ですが、その分だけ、ほかの法分野とは一味違ったおもしろさがあります。 会社法のルールは、自分で起業する、どこかの会社役員に就任する、などの特別な事情がなければ、日常生活で役立つことはありません。しかし、それを勉強する過程で養われる、多角的な視点で物事を分析する能力は、大学卒業後の進路を問わず、きっと役立つはずです。18授業にしばしば登場する企業。こうしたロゴも、知的財産権の対象です。それをいつ使ってよいか(悪いか)を決めるのは、知的財産法です。営業標識法、著作権法などで扱います。 2014年、日本の営業秘密の法制度が弱すぎるため諸外国との制度間競争に負けるとの論文を発表し、翌年の不正競争防止法改正に反映されました。2018年に米国の「秘密特許制度」を日本に導入する場合の問題を描いた論文が、2022年の経済安全保障推進法の中の「特許出願非公開制度」に影響を与えました。裁判所への意見書で判決に影響を与える試みもしばしばで、知財高裁判決への批判が最高裁の判例につながったこともあります(最判令和元年8月27日)。利益相反性の高い企業買収を規律するための仕組みを検討する際の視点(イメージ) 次の問題についても、これまでに検討したことがあります。最近は、1つ目の問題に強い関心を持っています。 いずれも研究をはじめたばかりで、本格的な検討は将来の課題です。■ 機関投資家(特にインデックス・ファンド)対する法的規律のあり方■ 株主総会での議決権行使の方法■ 閉鎖的な株式会社での株主権の行使総合法律学科総合法律学科知的財産法―現代ビジネスと科学技術の最前線を「法」の視点から観察する利益相反性の高い企業再編を効率的に規律づけるためには、どうすればよいのか?

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