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研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像 私は、様々な環境問題に対処・改善することによって環境を保全していくための法分野について研究を行っています。この法分野のことを環境法と言います。「環境法」という名前の法律があるわけではありませんが、環境に関連する法律は数多く存在します。各種の環境法に基づく制度や具体的事例を研究し、その制度の意義と課題を明らかにし、一定の提言を行うことによって、持続可能な社会の実現を目指しています。 私がこれまでに取り組んで来た具体的な研究テーマは、環境法の中でも、①再生可能エネルギーの普及促進にあたって生じる新たな環境問題、②船舶に起因する海洋汚染(特に油濁)などです。小林 寛 教授慶應義塾大学法学部法律学科卒業、テュレーン大学ロースクール・エネルギー・環境法修士課程修了、早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。長崎大学准教授などを経て、現職。 私は、アメリカの民事訴訟手続について研究しています。なかでも、ディスカバリー(Discovery)という情報(証拠)開示の手続を対象にしています。アメリカの民事訴訟手続は、プリトライアル(pretrial)段階とトライアル(trial)段階に分かれていて、ディスカバリーは、プリトライアル段階に、訴訟当事者が当該訴訟に関係する情報を、任意で互いに提出し合う手続です。この手続があるために、訴訟当事者間で立場や資力に差があったとしても、対等に、公平に、裁判がおこなわれているといわれています。アメリカの手続と日本の手続を比較し、アメリカ法からヒントを得ることで、日本法への寄与を目指しています。竹部 晴美 准教授関西学院大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。2021年より現職。 経済の発展は私達の生活を豊かにするものとして重要ですが、環境汚染の発生は回避されなければなりません。環境への負荷の少ない経済の発展が図られることによって、私達の社会は持続的に発展して行くと考えられます。最近は、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱など)に関する法制度や訴訟の日米比較研究に取り組んでいます。こうした研究によって持続的発展が可能な社会の構築に向けて貢献できると思います。 過去のゼミ生の卒業論文における研究テーマは、「持続可能な発展概念」「環境権」「廃棄物の不法投棄」「絶滅危惧種の保護のための法制度」「容器包装リサイクル法」「土壌汚染事件に関する裁判例の分析」「環境影響評価制度」「有害廃棄物の越境移動」などでした。 また、卒業後は、地方公共団体(つまり、地方公務員)や民間企業の環境部署、環境関連の研究機関や財団法人などへの就職が考えられます(もっとも、就職先は環境関連に限られるものではありません)。環境問題を取り扱う法律家になることも考えられます。 最近取り組んでいるトピックの一つは、インターネット上などで名誉毀損やプライバシーの侵害を受けたときに、加害者を容易に特定できない場面で、どのように被害者の被害回復をおこなうかという問題です。このような問題にもアメリカ法が役立ちます。アメリカにはジョン・ドゥ訴訟というものがあり、被告が特定できない状況下で、被告をジョン・ドゥという仮名のまま訴訟提起を行い、訴訟進行の過程で被告を特定し、特定された時点で仮名から被告に置き換える訴訟形態のことです。「訴訟進行の過程で被告を特定」するのに、(広義の)ディスカバリー手続を用いて解決を試みます。日本でも同様の問題が起きていますが、現行の日本の民事訴訟手続では、手間と時間がかかるうえに、思ったような効果を生み出すことができません。今後も日本法に関する問題点の解決に、アメリカ法から学べることがないか検討していきたいと思います。以上のような内容について、民事訴訟法の授業の一コマや発展演習で取り扱っています。持続可能な脱炭素社会自然共生社会主な研究事例主な研究事例社会循環型社会17左上:油濁事故の現場の写真中:環境法が目指す社会のイメージ図右上:大規模太陽光発電所の写真・ 再生可能エネルギーの普及促進に伴う新たな環境問題の発生に着目し、こうした問題を改善し脱炭素社会の実現に資することを目的とした研究を行いました。・ 船舶や洋上掘削施設に起因する油による海洋汚染(「油濁」といいます)に関する国際的な事故(例えば、エリカ号事件、メキシコ湾原油流出事故、ナホトカ号事件など)を取り上げ、油濁事故から生じる法律上の問題点を研究しました。ニューヨーク州の地方裁判所の法廷の様子です。 日本で現在議論されている民事訴訟手続のIT化への一助とすべく、裁判のIT化を先んじて実現した合衆国連邦裁判所における事例等を紹介し、これまでに生起している問題点やその対応の実情について検討したものとして、拙稿「Eファイリング導入に伴う弁護士と当事者の負担について-Eディスカバリーとの関係性を踏まえて」アメリカ法 2020-2、211-225頁(2021年) がある。総合法律学科総合法律学科環境を保全するための法制度を学び、持続可能な社会の実現を目指すアメリカ法との比較から日本の民事訴訟手続を考える

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