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研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例 実験経済学というとみなさんは何を想像しますか。高校の物理学や化学の実験から連想しやすいよう例えてみましょう。航空会社は、新型の旅客機を開発する際、先に模型を作り風の起こる部屋で離陸・着陸等がスムーズにできるかシミュレートします。同様に、経済学でも新たな取引の仕組みを開発したら、まずヒトを集めた模型の経済で、それがうまく機能するか検証・修正していくのが実験経済学です。一つの応用例として、防災対策や美しい景観など、誰もが同時に享受できる「公共財」があります。他人に「ただ乗り」する行為を防ぎ、うまく費用負担し合うための仕組みをモデルで考案し、実験をすることで、その性能や改善点を炙り出します。舛田 武仁 准教授2014年に大阪大学で博士(経済学)を取得。高知工科大学で助手、その後京都大学で特定助教、大阪大学で講師を務める。その間アリゾナ大学にて1年間の在外研究を経験する。2020年4月に信州大学経法学部の講師として着任。2021年より准教授。 専門は医療経済学です。私たちは病気になったとき、医療保険を使うことで安心して医療サービスを受けることができます。ところが保険は医療を必要とする人を、健康な人が支える仕組みですので、少子高齢化社会では健康な世代の負担が多くなるかもしれません。またコロナ禍では、病床が足りなくなり、自宅で療養する人が出たり、それによって不幸にも亡くなった方もいました。また発熱外来も混雑し、検査も足りないとの批判も溢れました。誰もが健康で幸せな生活を送り、真面目な医療専門職の努力が報われるために、医療制度の問題をデータを使って明らかにしたり、分析方法の開発が必要で、そのための研究に従事しています。増原 宏明 教授2004年に一橋大学大学院経済学研究科を単位取得退学後、2005年より国立長寿医療研究センター、2009年より広島国際大学医療経営学部講師。2016年に信州大学経法学部に着任し。2021年4月から教授。専門は医療経済学、応用計量経済学。 長い間ミクロ経済学は人間を計算高い生き物とみなしてきましたが、近年、実験が盛んになってきたことで、従来の理論の見直しが迫られています。しかし、経済学での実験研究の歴史はまだ浅いほうなので、どんな行動モデルがよいか意見が割れているのが現状です。私は、このような中で、人間行動の特性に立脚した経済制度の構築を目指し、公共財供給をはじめとした問題に挑戦していきたいと思います。現在は、在外研究の経験を活かし、国内や欧米にいる研究者と協働しています。 学部ゼミでも、本格的な実験手法をとることを心掛けています。ゼミ生は、どうすれば意思決定の課題を参加者に明快に説明できるか、分析に適したデータを集められるか、などをグループで工夫し合い、実験を実施します。これまでの信州大学の実験経済学ゼミ生の進路は、大学院進学、システム・エンジニア、公務員などです。実験経済学に興味を持たれた方はまずこの本を手に取ると良いでしょう:西條辰義編著(2007)「実験経済学への招待」、NTT出版株式会社。  コロナ禍では、なぜ若い方の学校生活が今までのようにはできずに、さらに緊急事態宣言が発せられたのでしょうか。なぜ、病床が足りなくなったり、発熱外来が混雑したりしたのでしょうか。これらはすべて、わが国の感染症への備えを超えた爆発が起きたことに原因があります。医療経済学を学ぶことで、わが国の医療制度の長所だけでなく、不足している部分と、その原因を把握でき、さらに対策のための提案ができるようになります。 またコロナ禍では、都道府県単位、1日単位で陽性者数、ワクチン接種率、病床充足率、行動指数などが発表されるようになりました。対策を考えるにあたっては、データで問題点を把握することが欠かせません。統計学と統計ソフトを駆使して、可視化する能力が身に付きます。さらに、日常生活を犠牲にすることなく、感染症に打ち克つ現実の政策を考えることができるようになります。政策的な側面を主に述べましたが、自らデータを集め、仮説を検証することはビジネスの現場でも欠かせません。DXに対応した能力が身に付きます。13経法学部で行った経済実験のようす(研究事例に挙げたような場面の当事者になりきって意思決定しています)・ 公共財供給:歴史的遺産を保護するため寄付金を集めるには、どのような方法が効果的だろうか?・ オークション:最も将来性がある携帯電話事業者を見抜くための手段とは?・ リスクと慎重さ:将来に向けて貯蓄できない人を見極め助けるにはどうすればよいか?・ 曖昧さへの態度:他者の行動など確率で表しにくい不確実性を人はどのように認識するか?・ 予測市場と集合知:大統領選や競馬ではみんなの予想は案外正しいのか?わが国のコロナに対する反応。灰色の帯の2020年の緊急事態宣言では、在宅(茶)が増え、買い物(緑)が減っています。またワクチン接種(赤と青の点線)が進むことで、買い物(緑)は少し回復してきたこともわかります。ただし、PCR検査陽性者(青)は、行動が回復することで、逆に増えています。 2020〜2021年の第1〜3波のときに、なぜ病床が足りないか、医療提供体制の問題について分析しました。感染症の数理モデルから陽性者が減るプロセスを、データで実証しました。2022年には、ワクチン接種の効果を日本、ドイツ、フランス、イタリアで比較し、日本は行動抑制が続いていたため陽性者の減少が実現されたことを示しました。さらに、2020年から2022年にかけての厚生労働省の事務連絡を分析し、評価すべき点と改善すべき点を明らかにしました。応用経済学科応用経済学科「風洞実験」とモデルの両輪で制度をデザインしていくコロナ禍における医療提供体制の問題点:医療職の犠牲の回避と日常生活の両立

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