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研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例 数理統計学、特に時間などに依存して変動するデータを取り扱う「確率過程の統計解析」及び、高次元データを取り扱う「高次元統計学」を専門に研究しています。数理ファイナンスなどで現れる時系列データの挙動を推測するための理論研究や、高次元データから重要な情報を選択するための手法を、「本質的に必要な情報は少ないはずである」というスパース性と呼ばれる性質に着目して考案する研究に取り組んでいます。提案手法の良さは、データの個数が多くなったときの振る舞いを数学的に導出することで検証します。実データ解析への応用を目指し、コンピュータを用いた数値計算に取り組むことも研究活動の一部です。藤森 洸 准教授2015年早稲田大学基幹理工学部卒業。2019年同大学院基幹理工学研究科博士後期課程修了(博士(理学))。2019年4月より早稲田大学基幹理工学部数学科講師を経て2020年より現職。 ファイナンシャルアドバイザーって株の取引きとかに関係していて、経済学とあまり関係ないよねって思いました?そうじゃないんです。例えば、ファイナンシャルアドバイザーの昇進・報酬制度はパフォーマンス重視で、同僚との競争がある中で、取引におけるリスクをどのタイミングでどの程度とるかが重要になります。このリスクの取り方次第では、顧客への不正行為につながってしまうのです。では、昇進のためのキャリア形成において、どのタイミングでどの程度のリスクをとるべきなのか?不正を犯した場合、性別や国籍で違いがあるの?不正を減らすには、報酬制度をどのように設計・規制すべきなの?こういった問いに対して、経済理論モデルやデータを使って検証することも経済学における研究の一種なんです。本多 純 講師ヨーロッパのオーストリアにあるウィーン大学で経済学博士号取得(2015年)。その後もヨーロッパ(オーストリアとドイツの大学)に研究者として滞在し、コロナ禍の2021年に帰国し、公正取引委員会でエコノミストとして2023年3月まで勤務し、4月から現在の職に着任。 数理統計学は数学を基盤とした学問です。基礎理論を理解するためには微積分学、線型代数学や確率論などを身につける必要があります。勉強には時間がかかり、難しいと感じる人も多いようです。一方、統計学を勉強することは世の中の仕組みを理解することや、意思決定の指針を得ることにつながるため、時間をかけるだけの価値はあると思います。例えば、よく知られた統計的解析手法の中にはAIなどに通ずるものもあり、統計学の勉強を通して最先端技術の背景の一端を見ることができるかもしれません。近年は数値計算ソフトウェアが普及しており、多少のプログラミング技術を身に付けることで様々なデータ解析を実際に行うことができます。数学が苦手な人も、実際にデータ解析を行いながら統計学的な手法や機械学習で用いられる実用的なスキルを身に付けることが可能です。データから知りたい情報を推測し、意思決定に役立てるための方法を提示する統計学の勉強を通して、分野を問わず、様々な問題を考えることができるようになると考えています。 私の近年の研究では、インターネットを通じて、アメリカ全土のファイナンシャルアドバイザー100万人以上の10年以上にわたる個人データ(数値だけでなくテキストも貴重なデータですよ)を構築し、個人投資家に対する不正行為の実態をいろいろな角度(富の格差・性差別・労働市場・自己破産・株式市場・コロナ禍)から検証しています。データをさらに蓄積していくことで見えてくることもあれば、今後の(国内だけでなく国際)市場動向・経済政策・規制の導入を考慮に入れることで、幅広い視点から同じ考察対象を検証することもできます。 ただし、研究は、辛抱強く失敗を繰り返しながら、一歩一歩こつこつと作業をこなす、時間のかかる地道なものです。非効率的な部分はありますが、総合的な費用対効果の視点から考えて、効果が費用を上回るということになればいい長期投資、と考えています。講義・ゼミでは、経済学的直観を養うことを大事にし、できる限り現実の生活で役に立つようなスキルアップの機会を提供することを念頭においています。12数理ファイナンスなどで広く用いられる確率過程のモデルの様々なパス。時点ごとの観測に基づいて挙動を統計学的に推測することができる。1. 高次元のデータを共変量として含む確率過程の統計モデルに対する推測手法の研究。2. 空間データを取り扱うための点過程の統計モデルに対する推測問題の研究。3. 整数値時系列の統計モデルにおける条件付き分散に着目した検定問題の研究。4. 高次元時系列の統計モデルに対する推測手法の研究。2008年1月〜2020年9月(週単位)における株式市場に対する投資家の心理状態を数値化した恐怖指数 VIX とファイナンシャルアドバイザーに対する不正に関する投資家(顧客)との紛争件数 株式投資なんか経験を積まないとよく分からないし、経験を積んだからと言って投資に失敗しないという保証はできませんよね?株式市場はこういう性質だからこそ、ファイナンシャルアドバイザーが存在し、規制が厳しくなっても、経験や知識に乏しい個人投資家に対する不正はなくなりません。私がデータから明らかにしたのは、標的にされる投資家(顧客)の多くは、株式市場の混乱後、以前から行われていた不正に気づき訴える、という実態です(上図参照)。応用経済学科応用経済学科高次元データ・確率過程の統計的解析手法の発展に貢献するファイナンシャルアドバイザーの不正の実態

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