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研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例 数理ファイナンスや金融工学の研究をしています。この分野では、金融派生商品(デリバティブ)の公正価値や、金融市場における取引戦略を数理的な観点から分析します。数学の一分野である確率論、特に確率過程の理論を応用し、金融資産の価格の動きをモデル化し、リスクやリターンなどを計量します。また、モデル・リスクといい、不適切なモデルを使うことによる影響を評価することも研究対象です。例えば、リーマンショックの原因となったサブプライム・ローン関連の金融商品に使われていた評価モデルは、適切ではなかったと言われています。金融取引は、近年ますます複雑になり、価値やリスクを適切に評価することが求められています。都築 幸宏 准教授2000年京都大学理学部卒業、2002年東京大学大学院数理科学研究科修了、2015年同大学大学院経済学研究科博士課程修了、2002年より民間企業に勤務、2016年東京大学大学院経済学研究科特任講師を経て、2017年より現職。 日本の産業別生産性を計測するJIPプロジェクトと、その姉妹版で地域別・産業別の生産性を計測するR-JIPプロジェクトに近年携わってきました。生産性の正確な計測のためには、産出と生産要素投入をできるだけ正確に測る必要がありますが、特に地域レベルでその分析を行うには、単純なデータ上の制約に加えて、地域分析特有の困難があります。例えば、サービス産業の多くでは「消費と生産の同時性」があり、地域間価格差をどのように計測するかという問題が生じます。また、地域を跨って事業活動を行っている企業では、本社活動によって生まれる本社サービスを他地域の事業所の中間投入として扱って二重計算を避けるという問題があります。こうした課題を一つ一つ解決していく作業に取り組んでいます。徳井 丞次 教授1978年東京大学経済学部卒。1988年東京大学大学院経済学研究科単位修得満期退学。1988年信州大学経済学部講師として採用され、現在の職に至る。2011年より2021年まで独立行政法人経済産業研究所のファカルティーフェローを兼務。 金融市場はバブルや金融危機を繰り返し、教訓や経験を蓄積しているものの、金融危機は10年程度の周期で訪れています。さらに、各国の市場は連動性を高め、金融危機の規模はますます大きく複雑なものになっています。私の研究は、金融取引のリスクを分析し、適正に評価することですが、この研究が金融市場の安定化の一助となることを期待しています。 学生は、金融市場を定量的・数理的な視点から客観的に分析する力と、金融取引とそのリスクを正しく認識する金融リテラシーを、習得します。また、今日の金融市場は、情報技術や金融技術により資本・リスクの移転が容易になり、地域金融もグローバルな金融市場とつながっています。グローバルな視点を持ちつつ、地域の金融に貢献できるような人材を育成することを目標としています。銀行・証券・保険などが関連する産業ですが、社会現象を数理的な観点から分析する能力は、今日の情報化社会においては、分野を問わず役に立つと思います。 EU(欧州連合)が最近直面している経済的困難や、2016年の米国大統領選挙の予想外の結果に背景には、地域間格差の問題があります。また、日本では、今後数十年確実に予想される人口減少・高齢化のなかで、生産性と一人当たり所得の低い地域は人口流出が自然減に加わってさらに一層厳しい現実に直面することが予測されています。こうした背景から、われわれのプロジェクトで作成しているデータは、「平成27年版経済財政白書」、「平成29年版通商白書」、「令和元年年版労働経済白書」を始め、多くのところで引用・活用されています。また、JIPデータは、EU-KLEMS及びWorld-KLEMSの日本データとして、国際比較に利用され、様々な政策分析に活用されています。 大学で経済学を勉強した人の強みの一つは、データ数字を使って社会を分析しその未来を議論できることです。これから日本が直面する人口減少と高齢化は、世界に先駆けて直面する困難であり、そのなかで有効な政策提言やビジネスモデルを提示できる人材が求められています。9オプション価格には、市場参加者の将来の株価に対する予想が反映されている 金融派生商品の公正価値の評価およびリスク管理手法を数理的な観点から研究しています。特に、資金調達コストを考慮した金融派生商品の価格の研究をしています。コストを価格に転嫁するという点では合理的ですが、資金調達コストは信用力から決まり、評価主体の個別性が強くなります。このような価格を公正と呼んでいいのかが、この研究の難しいところです。2018年に米国ハーバード大で行われたWorld KLEMSの参加者達と、ジョルゲンソン先生夫妻を囲んで記念撮影。私は前から4列目中ほどにいる。World KLEMSは世界の生産性比較を行う研究プロジェクト。 2018年に出版した編著の『日本の地域別生産性と格差 R-JIPデータベースによる産業別分析』(東京大学出版会)では、研究リーダーを務めるR-JIPデータベース・プロジェクトのこれまでの研究成果をまとめて発表した。序章、第1章、第2章、第3章、第5章を担当した。応用経済学科応用経済学科金融取引のリスクを計量する生産性の切り口から、地域間格差の要因を探る

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