人文学部研究紹介2024-2025
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主要学術研究業績主要学術研究業績2.色の存在論    生物の知覚や色彩工学に携わる研究者に言わせれば,我々が見ている色は事物そのものが有する性質ではありません(また,反射や透過を経て事物から我々の目に届く光そのものの性質でもありません)。しかしそうだとしたら,どうして色は事物に備わった性質のようにしか見えないのでしょうか。事物の表面に無いのなら,色はどこにあるのでしょうか。いや,そもそも色は,どこかに「ある」と言っていいようなものなのでしょうか。私は,我々を困惑させるこういった一連の問いに,満足な答えを与えることを目指しています。篠原 成彦 教授2. いわゆる「朱子学」と「陽明学」では,「心」「性」「命」「理」などといった思想概念が議論の対象となります。こういった彼らの議論のさまを,可能な限り当時の脈絡に寄り添いつつ,しかし現代の日本に生きている自分自身が実感をもって理解できるように研究しています。言語体系も生活環境も大きく異なる「彼ら(未知の友人たち)」との「対話」を重ねていくことを通して,現代の日本に生きている自分の「立ち位置」を見極めたいと考えています。これが,私の考える「比較哲学」の実践です。早坂 俊廣 教授●現在の研究テーマ1.自然主義の可能性    ここで言う「自然主義」とは,人間のさまざまな営みも含めて,この世界で起きることは結局すべて自然現象だといえるのではないか,という見とおしのことです。実際,自然現象だとは考えにくい事象は少なくありません。たとえば善悪とか,心とか,数とか,言語とか,あるいは色だとか。私は長らく,この種の事象を自然主義的な世界像の中にうまく位置づける手立ての探索に取り組んできました。●現在の研究テーマ1. 宋から清にかけての中国思想史,いわゆる「朱子学」と「陽明学」を研究しています。こういう書き方をしますと,何だか朱子や王陽明を「偉い人」と崇め奉っているような印象を与えてしまうかも知れませんが,どちらかと言えばその逆で,彼らのような人たちがどういう脈絡(地縁,人間関係,記録の伝わり方等々)のなかで「偉い人」として描かれるようになっていったのか(専門的な言い方をするならば,「中国近世浙東地方における思想伝承・思想史叙述の様態」)を研究しています。研究から広がる未来と将来の進路 哲学するために求められ,哲学することで身につく技能のひとつに,<問いをうまく立てる技能>というのがあります。もうちょっと具体的に言うと,<解き方の道筋が見えてくるような問いの立て方をする技能>です。さまざまな職場で求められる問題解決能力というやつの核心は,要するにこれでしょう。研究から広がる未来と将来の進路 「中国の古典」を読むということは,空間的にも時間的にも現代日本と大きく隔たった知の世界に触れる体験となります。その体験を通して,未来を見通す力や多文化共生の術が体得されたならば,それらは様々な進路に応用可能なスキルとなりましょう。1995年,九州大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学の後,東京都立大学人文学部助手を経て,信州大学人文学部助教授(後に准教授),2013年より同教授。1993年3月広島大学大学院文学研究科(中国哲学・インド哲学専攻)博士後期課程単位取得退学。1993年4月国立北九州工業高等専門学校(一般教育)専任講師。その後,同助教授を経て,2002年4月信州大学人文学部助教授。その後,同准教授を経て,2015年4月から同教授。2015年「手短な独我論論駁」『信州大学人文科学論集』第2号(通算49号) 規則に従うという現象にかんするウィトゲンシュタインの洞察を援用して,独我論を論駁しています。2011年「事物は色をもちうるか」『哲学の探求』第38号(若手哲学者フォーラム) 色にかんする2種類の機能主義的理論を取りあげ,両者が抱えている困難について論じています。2009年「言語の起源/起源の言語」『岩波講座哲学』第3巻(岩波書店)所収 言語起源にかんする仮説が乱立している現状を,自然主義的観点から肯定的に特徴づけています。 2008年「クオリアとクオリア実感」『感情とクオリアの謎』(昭和堂)所収 いわゆるクオリア(感覚質)にかんする消去主義の戦略を提示しています。1994年「投機としての自然主義」『科学哲学』22号(日本科学哲学会)  自然主義は思想としてではなく,投機的なプロジェクトとして扱われるべきだと論じています。【著書】*湯浅邦弘(編集)『中国思想基本用語集』(ミネルヴァ書房2020年)  「第五章近世思想―朱子学・陽明学の世界―」の一部を分担執筆しました。*小路口聡(編集)『語り合う<良知>たちー王龍溪の良知心学と講学活動ー』(研文出版2018年)   長年に及ぶ共同研究の成果です。「語らない周夢秀を語るー王龍溪と嵊県の周氏ー」の執筆と,銭明「講学と講会ー明代中晩期の中国陽明学派を主軸としてー」の日本語訳を担当しました。*小島毅(監修)早坂俊廣(編集)『文化都市 寧波』(東京大学出版会2013年)   「東アジア海域に漕ぎだす」シリーズの第2巻です。同巻全体の編集をするとともに,第Ⅱ部第3章「思想の記録/記録の思想−寧波の名族・万氏についてー」とコラム「「中国のルソー」を育んだもの」「寧波の英雄・張煌言」を執筆しました。【論文】*早坂俊廣「劉宗周に於ける意と知−史孝復との論争から−」(『東洋古典学研究』第46集,pp.17-44 2018年)  明末の思想家・劉宗周の思想を最晩年の論争から読み解きました。4●研究分野●研究分野哲学・芸術論コース哲学・芸術論コース言語哲学,心の哲学中国哲学

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