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06考えることの重要性を学生に伝えることが重要だと思います。―最後に、感性工学の未来展望についてお聞かせいただけますでしょうか。感性工学はこれから何処へ向かうんでしょう?高寺:個人が喜ぶものを生み出すためには、“個性をどう扱うか”というところに最終的に行き着きます。ですから、今回話題に挙がっているAIとの関連で言えば、感性工学の研究でAIを活用するならば個性を持たせることが必要になるわけです。 将来的に個性を持ったAIが開発されれば、感性工学の研究で活用できる可能性はあるでしょう。ただ、現状ではそれを作るためのデータが不足しています。インターネット上に様々なデータが溢れるほどありますが、それらは必ずしも信頼できるものではない。要するにデータソースがきちんとしてないと研究で活用することはできないんです。この点が課題と言えますが、技術の進歩で状況が変わっていくような気もしています。金井:“効率化ではない価値の提供”も、感性工学のこれからを考えるうえで重要になると思います。現代人はあまりにも効率性を求め過ぎている。しかし、それ以外の価値に目を向けないと、モノに関して言えば、値段が安ければ皆が飛びつくということになります。そのような価値観に基づいた暮らしや社会は豊かだと言えるでしょうか。“ドキドキ・ワクワク”とか“侘び寂び”といった感覚に感性的な価値がつき、社会にきちんと評価され、経済価値が付くためにはどうしたら良いかを考えなくてはいけません。金:モノづくりにおいて、その担い手が高齢化してきている現状を考えると、デジタル技術を活用して仕事を属人性から解放し、効率化を図っていく必要があるでしょう。一方で、効率だけでは人が喜ぶものは作れません。多くの人に喜んで使ってもらうモノをつくるためには、人間の感性を理解できないと難しい。感性は個人の経験や社会的な環境に依るところが大きいので、それらを考慮しながら人の感性を刺激する服づくりを進めていく必要があると思っています。田中:タイムパフォーマンスやコストパフォーマンスを求めて、効率化がどんどん進んでいくことは、世の中の大きな流れですし、私の研究領域である「材料開発」でもそうです。ただ、まだAIにはない人の特性としての「閃き」は、効率化とは対極である何もしない時間に突然閃くこともあります。一般的には無駄な時間と思われていることが、実は無駄ではない“貴重な時間”であるとも言えます。効率化だけが重要な価値ではないことを、将来を担う学生に伝えていきたいと思っています。上條:ちょっと哲学的な言い方になるかもしれないですけど、感性工学が目指しているものって、“人類の幸せ”ではないでしょうか。でも、今の時代が果たして幸せな時代かというと、とてもそうだとは言えない。その大きな理由のひとつは、皆さんが指摘されているように、社会が大きな流れとして“効率化”の方向に突っ走っていることの弊害ではないかと思うんです。現代社会は人間らしく生きていくことを、忘れさせられてしまうような状況にあるのかなと。そのようななかで、「人間として何が幸せなのか、どう生きていくのか」ということを、もう一回改めて考えることを多くの人が求めているように思えます。そして、まさに感性工学はそのきっかけになるのではないでしょうか。―もはや工学にとどまらず、これは“哲学”ですね。高寺:そのような“哲学”のもとでエンジニアリング(工学)に取り組んで行こうということですね。上條:その通りです。哲学をそのまま言葉で伝えようとしても、世の中にはあまり通じない。ですから、モノづくりを通して、この哲学を実践し、人類の幸せを目指していきましょう、というのが感性工学だと思っています。これからも感性工学のモノづくりがもっともっと社会に広がることで、人類が幸せに近づいていくことを願っています。―皆さん本日はお忙しい中、素敵なお話をありがとうございました。Roundtable Discussionon Kansei Engineering“ドキドキ・ワクワク”とか“侘び寂び”といった感覚に経済価値が付くようにしなくてはいけない。(金井)感性工学が目指しているものって結局のところ“人類の幸せ”です。(上條)「感性工学」は、これから何処へ向かうのか?やっぱり、感性工学は哲学だ。KanseiEngineering

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