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05私自身、そのようなバーチャルとリアルのイメージの差をどうしたら埋められるかを、感性工学の観点から考える研究も少しずつ始めているところです。―DXは効率化だけでなく、付加価値を高めた“欲しい服づくり”にもつながりますか?金:今の時代において、購入意欲を刺激する服は「美しい」「格好良い」といった感性価値を持ったものです。そのため、感性工学的な服づくりが重要になるわけですが、3Dシミュレーションなどのデジタル技術を活用することで感性価値を定量的に測りやすくなります。服づくりのDXは人が欲しいと思える服づくりを促すと言えるでしょう。金井:性能・機能も服の購入意欲を刺激する要素のひとつですが、バーチャル空間上で性能・機能をシミュレーションで評価し製品を設計していくという考え方は一つの大きな流れを形成しています。私はより心地よい服づくりを目指す研究をしていて、人が動いた際に身体に掛る衣服圧の計測を行ってきましたが、今や実際に測らずにシミュレーションで大体の部分を推察できるようになってきました。―DXに関連して、ここにきてChat GPTのようなかなり高度な生成AIが登場し、ネット上で何か質問すればある程度の回答を簡単に得られるようになりました。研究や教育はどう変わりそうですか。田中稔久教授(以下役職略):たしかに、レポートや論文の作成といった点では脅威です。しかし、現段階では質問に対する回答にとどまっており、研究にとって重要な要素である“創造性”はまだ発展途上ですね。創造性の源泉は個性ですが、現状ではAIは個性を持っていません。今後、個性を理解する「個人AI」が出てくれば、創造性が発揮されAIの価値は高まるのではないでしょうか。倫理面での整備はもちろん必要ですが。高寺:創造性に似たものとして、“閃き”がありますが、これも研究活動において重要な要素です。個人AIが開発されれば、AIがそれぞれの個性で閃いて、新たな発見や見方が増えていきそうです。金井: 今のAIが作るものにはストーリー性がないということも、感性工学の研究でAIを活用するうえでの課題です。感性工学の手法の一つとして、モノにストーリーを付加して感性を刺激するというものがありますが、現状のAIではこうしたことができないんですよね。上條正義教授(以下役職略):モノにストーリーを付加することは、いわゆる“コトづくり”と言い換えることもできますが、これによりモノが単なるモノ以上の付加価値を持つようになる。そして、その付加価値が人を惹きつける。感性工学が目指す方向性のひとつに、こうしたコトづくりがあるだけに、AIがストーリー性を持たせたものを作れるようになるのか、今後の動向に注目しています。―AIの回答が不正確といった点を指摘する声もありますが…どう使われますか?金:ChatGPTなどの生成AIが回答を作るために使っている情報はインターネット上のデータですので、情報の質を担保できない部分があります。それならば、AIが情報源とするデータを私たち研究者が作ればよいのではないかと思います。つまり、AIはあくまで“道具”ですので、その便利な道具をどう使っていくかを考えることが重要ではないでしょうか。 ただ、教育面に関して、学生は必ずしも正しく使いこなせるとは限らないので、教員が指導する必要はあります。今は、必要な情報をインターネットなどを通じて効率よく見つけることができる力が問われている時代です。生成系AIはそのための重要なツールになっていくでしょうから、大学の研究でもノータッチというわけにはいかない。回答をどこまで信用し、どのように取り入れていくかを、私自身も学生に伝えていきたいと思います。上條:大学教育での生成AIの活用を考えるうえで、もうひとつ重要な観点が、学生のモラルの醸成です。作成されるレポートは、あくまで“オリジナル”でなければならない。このオリジナリティこそが、各人の感性・個性であり、それをどのように育成していくのかが重要だからです。しかし、AIでレポートを作成してしまえば、学生のオリジナリティは失われ、感性教育の機会が奪われることになります。 そのため、レポート作成で生成AIの活用を認めるならば、あくまで“道具”としての活用に留める意識を学生に強く持たせる必要がある。生成AIで得た情報の真偽を自分で確かめ、その情報に基づき自分でフリートーク【座談会】今後、個性を理解した「個人AI」が出てくれば我々の利用価値も高まりそうだ。(田中)本当の「感性価値」をAIは理解し扱えるのだろうか?時代が求める「感性工学」の未来。

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