理学部研究紹介2023
34/40

微生物微生物朴 研究室國頭 研究室研究から広がる未来卒業後の未来像研究から広がる未来卒業後の未来像朴 虎東 教授信州大学医学部で学位を取ってから、1994年から信大理学部で学生諸君と諏訪湖におけるアオコ毒素の動態の研究を始め毒素分解菌や毒素の蓄積に関する研究を行っている。國頭 恭 教授1998年、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。とくに森林土壌において、炭素や窒素、リンの循環に関わる微生物の働きについて研究している。また重金属汚染についての研究も、学生時代から継続中。私たち人間の活動は環境に様々な影響を与えています。特に湖沼・河川は集水域における人間活動の環境負荷の結果が複合的・集中的に現れ、もっとも人間活動の影響を受けやすい環境とも言えるかもしれません。たとえば、淡水赤潮・アオコの発生は、人間活動の環境への負荷によって水界生態系のバランスが崩れ、ある特定の生物だけが増殖した結果なのです。これらの生物の中には毒性物質を生産する種があり、湖沼の生物相に影響を与えるばかりでなく、水道の水質問題など私たちの生活にも影響を及ぼしかねません。朴研究室では、アオコを形成する藻類の中でも「藍藻類」、特にMicrocystis 属が生産している毒microcystinの生態系動態や人間への影響について研究をしています。「生物は如何して毒を作るのか?」を命題に藍藻が生産している毒素の研究を始めて20年が過ぎました。毒素の生産・分解・動態の機構を明らかにすることは水因性の健康リスクを軽減することも可能であり、さらに毒素の生態学的な意味を明らかにすることでアオコ制御の技術開発にも発展できることも期待できます。私たちの身近に存在する土壌は、植物の生育を通して全ての陸上生物を養っているだけでなく、多様な元素の循環など、様々な機能を有しています。また近年では地球温暖化が大きな問題となり、土壌の炭素貯蔵にも関心がもたれています。土壌中には、細菌、糸状菌、微小藻類、原生動物、ウィルスといった肉眼では観察できない微生物が数多く生息しています。様々な微生物が、植物が光合成でつくった有機物を分解して無機物として放出することで、植物の再生産が可能となります。このように、微生物は生態系の物質循環にきわめて重要な働きを持っています。朴研究室では湖沼や川の水質調査や生物が生産している二次代謝物質の分析やバイオアッセイの方法を身につけることから、国、自治体や民間企業の分析分野及び浄水場、環境アッセスメント分野などで活躍されています。土壌中の物資循環における微生物の役割を明らかにすることは、陸上生態系を保全しそのサービス機能を維持する上で有用です。また近年深刻になっている環境問題に対応する際にも重要です。例えば、温暖化にともない微生物による土壌有機物分解と二酸化炭素放出が増加するのか否かという問題は、現在まで解明されていませんが、微生物がいずれの応答を示すかで、将来の気候変動にも大きな影響を与えます。研究により身につく論理性やプレゼンテーション能力は、文系、理系に拘わらず強力な武器となります。卒業生は、研究者や中学・高校の教員、分析会社といった理系の職種から、公務員などの文系の職種まで幅広い分野で活躍しています。29諏訪湖におけるアオコ毒素の動態(ミクロシスチンmicrocystinの生産・摂食・蓄積・分解及び流下)アオコ毒素microcystinの動物体内での毒性発現と代謝機構有機物を微生物が分解することで、炭素や窒素、リンといった元素が循環し、微生物だけでなく他の生物にも利用できるようになる。採取した土壌を対象に、微生物実験や化学分析を行う。理学科物質循環学コース理学科物質循環学コース湖沼のアオコ毒の生産-蓄積-代謝-分解-動態のメカニズムを解明したい一握りの土の中にも無限の世界

元のページ  ../index.html#34

このブックを見る