理学部研究紹介2023
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二村研究室吉田 研究室研究から広がる未来卒業後の未来像研究から広がる未来卒業後の未来像二村 竜祐 助教2012年3月信州大学総合工学系研究科博士課程修了後、信州大学エキゾチックナノカーボン研究拠点、環境・エネルギー材料科学研究所 博士研究員、特任助教(2018年度)を経て2019年4月より現職。専門分野は『ナノ空間科学』。吉田 孝紀 教授岩手県生まれ、北海道大学大学院修了、1998年信州大学理学部地質科学科助手、2016年より現職。研究分野は層位学、堆積学、堆積岩岩石学。皆さん「ナノ」という言葉は聞いたことがあるかもしれません。「ナノ」は科学から一般に浸透した言葉で、10-9 (= 0.000000001; 0が9つ並ぶ)を表し、物理単位と一緒に出てきます。我々人間にとって1nm(ナノメートル)は目では捉えることができないほど、非常に小さな大きさですが、化学の主役である分子たちにとって1ナノメートルは自分たちの大きさより少し大きなサイズになります。私たちはナノメートルサイズの空間に閉じ込められた分子集団の振る舞いについてX線散乱測定などから研究をしています。最近の私たちの研究では「塩」の一種であるイオン液体をナノ空間に閉じ込めることで非常に興味深いことがわかってきました。ナノ空間ではマイナスのイオンの周りにマイナスのイオンが近づけるのですから、いかにナノ空間が特殊な空間であるかということがわかるかと思います。このように、研究では一見すると常識とは矛盾しそうな現象が起こり我々科学者の頭を悩ませますが、なぜそのようなことが起こるのかを突き詰めて考えて理解するのが科学の醍醐味だと思います。我々の目標として、ナノ空間を有している「多孔性材料」と「吸着した分子集団」が合わさることで初めて生じる新たな機能を有効に利用することを目指しています。例えば、カーボンナノチューブの有するナノ空間を利用すれば、分子集団を円筒形にそろえることができ、通常では現れない機能の発現が期待できます。そのためには、どんな機能が期待できるのか、また多孔性材料そして吸着分子の種類などをよく考えて研究をスタートさせる必要があります。さらに、ナノ空間で吸着分子がどんな構造になるのか理解も必要でしょう。我々の研究はまだスタートしたばかりです。コンピュータプログラミング、工学機器を用いた装置製作、装置の作図及び3Dプリンターを用いた治具の作成などは研究でよく行います。ですので、学生たちは研究生活でこれらのスキルを身に付けていきます。これらを含め、化学系企業、装置メーカーなどの研究員を目指す学生を応援いたします。ヒマラヤのような巨大山脈の形成は、大気や海水の循環、降水量や季節性の変化などによって、地球環境に大きな影響を与えています。私たちは数億年前から現在までの時間スケールと、身近な地域からグローバルまでの空間スケールの両面において、巨大な山脈が与えた環境変化の解明に取り組んでいます。例えば、ヒマラヤ形成におけるもっとも初期の堆積物はインド洋の海底に堆積していますが、これまでその調査・研究はなされていませんでした。現在、インド洋の海底から採集された堆積物を検討して、ヒマラヤの上昇時期の特定やモンスーン循環の出現時期の特定を検討しています。また、ヒマラヤ周辺やアラビア半島周辺の堆積物の調査を行い、ヒマラヤ形成以前と以後の環境変化の研究も進めています。巨大山脈形成は地球の歴史において何度も繰り返されてきました。その都度、地球環境の大きな変革が生じ、生物進化を促してきたと考えられています。私たちの手法はフィールドワークによって堆積物を地道に調べるといった地味な方法が主体ですが、岩石化学や土壌学、放射年代学などの多くの手法も併用しています。現在の地球環境がどのようなプロセスで作られ、どのように維持されているのかを解き明かし、将来起こりえる地球環境変化を具体化したいと思います。研究で培ったデータや観察事実に基づいた思考力・問題発見力は、社会でも非常に強力な武器となります。卒業後は、研究者としての道を選んだり、民間企業の専門技術者や公務員として活躍しています。19カーボンナノ空間では、プラスのイオンとマイナスのイオンからなるイオン液体のクーロン力による秩序構造が一部崩れた!(a)電場を印加した時のスーパーキャパシタ内部における分子集団の構造変化を捉えた(a)電場印加によるマイナスイオン周りの第一配位圏の各イオンの割合の変化(b)作成したin-situ X線散乱セルヒマラヤ奥地でのフィールドワーク。調査地までの急峻な山道をひたすら登る。オマーン山脈南部での地質調査。2億年前の石灰岩の中からストロマトライトを探すために岩石砂漠をさまよう。写真は論文(Nature Materials, doi: 10.1038/nmat4974)のプレスリリース会見の様子。(信州大学HP)右から2番目が二村竜祐助教(b)理学科化学コース理学科地球学コースナノ空間と吸着分子で作る堆積物から解き明かす山岳形成と       グローバル環境の変遷新しいナノ材料

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