理学部研究紹介2023
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試料中の農薬成分を検出農薬成分なし農薬成分あり巽 研究室髙橋 研究室研究から広がる未来卒業後の未来像研究から広がる未来卒業後の未来像巽 広輔 教授京都大学農学部卒。2001〜2008年まで福井県立大学生物資源学部助手。2008年から信州大学に勤務。専門は電気分析化学。担当授業は分析化学、生物化学など。髙橋 史樹 准教授信州大学大学院物質創成科学 博士課程を修了。学外で勤務した後、2015年 信州大学先鋭領域融合研究群環境・エネルギー材料科学研究所 助教を経て、2017年から現職。電気化学は、電解質を含む溶液に、金属など電気を通す物質でできた電極を入れたときに起こる反応について研究する学問分野です。さまざまな電極と溶液を組み合わせて電気回路を作り、電圧や電流を測定すると、電極の表面の状態や、溶液に何が入っているのか、といったことがわかります。私たちの研究室では、液状の電極を使って電気化学測定を行なっています。主に、黒鉛の粉末を油に溶いて液状にしたものを用いていますが、銀などの金属粉末を油に溶いたものや、金属粉末を砂時計のように流しながら測定する方法についても研究しています。近年、分析機器の飛躍的な性能の向上に伴って、機器分析を用いた超高感度の有機・無機化合物の検出が可能になっています。しかし、分析したい試料の中には、研究室などへの移動中に分解したり、移動自体が難しい試料に直面することもあります。そのような時は、試料を採取する段階で必要な検査を行う必要があります。本研究室では、検出装置の小型化が期待できる電気化学分析について、医薬品成分などの検出に向けた基礎的な知見の取得を試みています。特に、電極反応に伴って光る現象として知られている、電気化学発光について分析化学的な研究を行っています。また、農薬成分の分析に向けた金属ナノ粒子による呈色試験法の開発についても研究対象としています。固体電極は、測定で表面が汚れるたびに磨かなければなりませんが、液状の電極はつねに新しい表面を出しながら測定できる、という利点があります。昔から、水銀を滴下させる電極がよく使われてきましたが、近年はその毒性のために用いられません。私たちの研究が進めば、電極表面を新しくしながら測定する方法が、水銀を使わなくてもできるようになります。高校の理科教員のほか、電気化学測定の経験を活かして金属の腐食・防食やメッキの研究をしている卒業生、環境水、工業廃水等の分析をしている卒業生がいます。電気化学測定は、物質の状態と関係する電位と、物質の量と関係する電流との関係から、目的の成分を定性的・定量的に測定する方法です。様々な化学物質や病理診断などへの応用が期待されていますが、ここに発光のパラメータを導入することで、より選択的・感度の高い検出法としての利用に展開しています。私たちの研究室では、その反応機構を理解するための基礎的な知見を得るとともに、微量物質の検出や予防医療などへの適用に役立てたいと考えています。研究室の「小さな社会」として、報告・連絡・相談がスムーズに行える環境を大切にしています。研究活動を通じて得た多角的に考える習慣は、問題解決に意欲的な研究者・技術者として活躍してほしいと思います。14液状炭素電極。Aは炭素滴が毛細管から離れる直前、 Bは離れた直後。電気化学測定装置。電極電位を制御しつつ、回路を流れる電流を記録できる。電気化学発光検出システム。新しい検出システムの製作は作り出す楽しみだけではなく、その機構を理解する楽しみを生み出す。金属微粒子を利用した、農薬成分の検出例。一目で成分の有無がわかる簡便な方法だが、その反応は非常に複雑。基礎研究を通じた機構解析も重要なミッションである。理学科化学コース理学科化学コース液状の電極を用いる電気化学測定試料中の微量の薬物・農薬成分の          可視化を目指す

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