附属松本中6年次 実施報告書
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- 29 - してもよくない」「種が近すぎて栄養が足りなかったのかもしれない」と枯れてしまった原因を考え始めた。 その後,みんなでもう一度種をまいた。肥料に原因を感じた子どもは,液体肥料の説明書をよく読み,薄める倍率やあげる頻度を考えながら育てる計画を立てた。水の量に原因を感じた子どもは,どのくらい土が湿っていればよいのか,どのくらいの頻度で水をあげればよいのかを調べて育てる計画を立てた。太陽の光に原因を感じた子どもは,一日中日光があたる場所はどこかを考えて育てる計画を立てた。種が近すぎたことに原因を感じた子どもたちは,ポットにまく種の数やまく間隔を考えて育てる計画を立てた。 それぞれの考えた方法で育てた種。しかし,無事に発芽したのはいいものの,なかなか大きくならない。すると子どもたちは「秋になり,気温が低くなってしまったからだ」「ポットでは,根を広げる場所がせまいからではないか」「家で野菜を育てるときは,ポットである程度大きくなったら地植えをする」と,原因を考えた。解決の方法としては,「外の畑に植えて,寒くないようにビニールをかける」というものであった。 このように,「枯れてしまう」という出来事をきっかけに,改めて「きちんと,大きく育ってほしい」と願いを持った子どもたちは,自分なりに原因を考え,それを解決するにはどうすればよいのかを考え,探究を進めていった。 子どもたちに願いがすわったとき,それぞれの中で課題が生まれ,夢中になって追究が始まることがわかった。教師は,子どもたちの願いを受け止め,授業を構想していく必要がある。 小学校3年生のかがく領域では,探究の中で,理科の「見方・考え方」を働かせて,対象である植物と関わっている姿を見ることができた。具体的には,枯れてしまったり,思ったように育たない植物に対して,対象の周囲の環境(栄養の多寡や日光の有無,気温など)に着目して生育条件を制御しながら探究を進めていたりすること,種や発芽したあとの葉の様子を比較しながら調べていること,自分の生活経験をもとに,育つための仮説を考え,解決の方法を発想していること,そして,植物を大切にし,生命を尊重しようとしていることである。 【事例②】単元名:「ちいちゃんのかげおくり」 【小3 ことば領域】 小学校3年生の「ことば領域」では,「ちいちゃんのかげおくり」を題材にことばの授業を行った。初発の感想では,「とても悲しいお話だ」と感じた子どもたちだったが,登場人物であるちいちゃんの視点で心情の変化を読み取っていくと,「でも,2回目のかげおくりの時,ちいちゃんはすごく幸せそうだよ」と違和感を持っていた。そして,この違和感を解き明かすための探究が始まった。 Y児は,「きらきらわらってるけど見回しても花畑って天国でしょ。だめじゃん」と考えた。教師が,「だめじゃんってどういうこと。何がだめなの」と問うと,「天国に行ってるからバッドエンド」と答えた。Y児は,花畑の記述からちいちゃんの死について考えたのである。そして,「そういうことか」とつぶやくと,「知っているのは作者と自分と作品を読んでる人」と書き加えた。この記述から,Y児は,ちいちゃんと作者,読者である自分の目線が違うことに気付き始めている姿であると捉えた。さらに,Y児は,「ちいちゃんは?」と書いた。どういうことかを問うと,「ちいちゃんは,花畑にいると思っているけど,そこが天国だとは思っていない。でも,ぼくたちはちいちゃんが死んだってことをお話を読んで知ってるでしょ」と語った。さらに,「きらきら」という叙述にも着目し,「お父さん,お兄ちゃんに会えたからちいちゃんは嬉しい」と,この場面におけるちいちゃんの目線での考えを書いた。そして,大きな文字で「悲しい」と書いた。Y児は,「きらきら」と「お花畑」の二つの言葉から,登場人物の目線,読者である自分の目線の違いに気付き,それによって抱く感想が異なるということに気付いたのである。 小学校3年生のことば領域では,それまで,挿絵や動作化,ペープサート等を手掛かりに,登場人物になりきり,お話の世界を楽しんできた子どもたちだったが,ここで初めて,登場人物に

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