5年次 実施報告書
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‐35‐ る。また,問いの解決に向かうことで子どもたちがユーザーの視点に気づき,技術観を働かせて家族に贈る鉛筆立てを製作することを通して,ものづくりの世界の面白さをさらに深く味わいたいと教師は願っている。問いから生まれる子どもたちの「3つの力」を発揮している様々な姿を予測し,支えることで,子どもの成長に寄与することが教師の役割ではないだろうか。 【事例②】単元名:「あると役立つ防災グッズ調査」(小4年 総合的な学習の時間) 1)過去と繋げてより明らかになるF児の「探究的な学び」 4年西組では,総合的な学習の時間として,地震のメカニズムを様々に調べた結果,地震時の避難者の行動に着目し,現実に近い避難所生活を体験することになった。活動の見通しがもてた日の放課後,F児は,珍しく教室に残り,「先生,テントって持ってきていいの?」と尋ねた。この時,教師の中では,一年前のF児の姿を想起していた。当時,F児は,社会科「チンチン電車と松本市のくらし」の学習に際し,チンチン電車を扱うことが分かると,祖父とともに昔の写真集を見たり,廃線の道筋を歩いて辿ったりして,自らの足で情報を集めた。 このような学び方をしてきたF児がテントを持ち込みたいと訴えたため,教師は,テントが学校内にあることで活動が豊かになることを想像し,また,F児の活動に期待しながら躊躇せずすぐに快諾した。そして,テントを通した体験の中で,F児の身にこれから起こるであろうことを教師自身も試したくなり,教師自身が生活スペースとしての一人分のテントを購入し,そこで生活してみた。すると,テントの中で,F児が直面する問題が頭の中で次々と浮かんできた。そのため,単元全体を通して,避難所生活を想定したテントの設置し易さやテント内での寝心地等,3年生まで同様,体全体を使って避難所生活を体験することで,F児の「探究的な学び」が保障されると願った。 実際,F児は,休み時間の度,廊下に常設されているテントを訪れ,何か特別なことをしていたわけではなく,ただ中に入って時間を過ごしていた。繰り返し似たような光景を見る中で,教師は,テントそのものを対象として捉え,【遊びの領域化】の学び方の特徴である「思いや願い,問い」に基づく活動中に働かせている見方・考え方に広がりがあり,事象を多面的に捉えている段階と捉え,F児が今求めているテント内での生活にとことん向き合える環境を保障した。 そして,テント内での生活が2週間程続いたある日,F児に「先生,寝てみなよ」と声をかけられ,言われた通りに寝てみた。以前,教師自身が購入したテントで体験した状況と似ていたことから,何の変哲もない時間だと思っていた。しかし,寒さが厳しくなりつつあったこの日に,F児の火照った顔を見た後に過ごしたテントの中で,教師は,テントでの生活を通してF児が眼差しているものを初めて捉えられた気がした。対象はテントでありつつも,そこで繰り返し暮らしてみることで,テントの中で起こる一つ一つに体が応じているのだと,素材研究時とは違った手応えを感じた。この後,F児が以下のように,振り返った。 今回は,自分で持ってきたテントの中に入ってみて,こう思いました。多分夏だとあっつすぎるし,多分冬でも暑いからといって,窓みたいなものを開けたら寒いと思う。あと,下に何かしかないと痛いし,冷たいから何かしかないといけないと思う。温度の変化でお腹が痛くなったこともありうるから,そういうのを対策してあるものを次回調べたい。 繰り返しテントの中で暮らすことで,温度の変化を感じ取り,そこからさらに自身の体に応じた対策を取ろうとする学び方は,【領域の教科化】の特徴である見方・考え方を深めている姿だと捉えることができた。 2)もっと詳しく知りたいと願うF児の「探究的な学び」を捉え続ける教師 翌日,F児は,本番を想定してテントを密閉し,長時間寝てみることに挑戦した。すると,

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