5年次 実施報告書
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びと不思議さ,早く何か書いてみたいとの思いで満ちていた。実際に筆に水をつけ,思い思い自由に,自分の名前や書きたい文字を書いたり絵を描いたりした後の振り返りの場面では,普段使用している鉛筆とは異なる筆の書きやすさに驚く子どもの姿があった。 教師は筆ともっと仲良くなりたいと願う子どもたちの姿から「かがく領域」を中心とした単元を構想した。身の回りのものを使って筆をつくったり,筆でいろいろな字や絵を書いたりしながら,液や道具を改良したり,友と考えや字の形やその字の様子を交流したり,遊んだりすることを通して,作り方や遊び方を工夫しながら筆遊びを楽しむことができるではないかと考えた。 本単元を「領域」の段階における「遊び」の延長と捉えた際,いろいろな展開を構想することができるだろう。一方で,本時は「学習」としての目的が希薄となってしまった感もある。この活動の行き着く先,この活動における子どもたちのめあては何なのかを,常に見つめていく必要がある。 【事例②】単元名:「つくろう!オリジナルデザイン!」(小3 かがく領域) 3年東組では学級の係活動の名称を○○係ではなく,○○会社と決め,子どもたちが社員となって学級のみんなの笑顔のために企画を考えて活動している。教師は,そんな子どもたちの「もっと知りたい,もっと調べたい」を支え,個に応じた探究が保障されるような授業をデザインした。2021年7月に行った「もっと知りたい!3東のこと」は,自分で知りたいテーマを決め出し,学級全員にアンケートを取り,棒グラフで表して学級の友達に紹介するという単元である。 小学校低学年では,ある事象に対して一面的な見方・考え方にとらわれることなく,子どもの「思いや願い,問い」に基づき活動が展開されていく。低学年の子どもたちの多様な見方・考え方を教師が受容することが必要だと言える。それと同時に,高学年の各教科の「見方・考え方」や,今子どもたちが取り組んでいる内容がこの先どのように発展し統合されていくかという教科内容の系統性についても的確に押さえておく必要がある。子どもが働かせている見方・考え方の広がりを受容するとともに,45分でのねらいに固執して思考・判断するのではなく,単元全体を(もしくはもっと先を見越して)俯瞰し,子どもの学びを捉えていくことが求められている。 (3)小学校高学年~働かせている見方・考え方が深まる【領域の教科化】~ 【事例①】単元名:「家族にぴったりの箸を贈ろう」(小5 技術科) 5年東組では技術科の学習で鉛筆立ての製作に取り組んだ。教師は,本単元で2度の鉛筆立ての製作を位置付けた。1度目は技術感を醸成することをねらった製作。のこぎり引きや釘打ちのおもしろさや楽しさを味わい,鉛筆立てが完成する喜びを感じられることをねらった。2度目は技術観へと高めていくことをねらった製作。「家族に贈る鉛筆立て」をテーマとし,家族にとって最適な鉛筆立てを目指して製作する。相手を意識することで,「最適化」という技術科の見方・考え方(技術観)が働くことをねらった。2度の鉛筆立ての製作を通して,技術感を醸成し,技術観へと高めていくことを意図して単元を構想した。子どもたちは鉛筆立てに触れ,観察し,叩き,嗅ぎ,重さを測り,水を入れて比較し,考察を記し,友達と語りあった。子どもたちは問いが生まれたからこそ,このように「3つの力」を発揮し,問いの解決に向かっていった。 【事例②】単元名:「あると役立つ防災グッズ調査」(小4 総合的な学習の時間) 4年西組では,総合的な学習の時間として,地震のメカニズムを様々に調べた結果,地震時の避難者の行動に着目し,現実に近い避難所生活を体験することになった。それまで,主体的な学び方をしてきたF児がテントを持ち込みたいと訴えたため,教師は,テントが学校内にあることで活動が豊かになることを想像し,また,F児の活動に期待しながら躊躇せずすぐに快諾した。そして,教師自身も生活スペースとしての一人分のテントを購入し,そこで生活してみた。すると,テントの中で,F児が直面する問題が頭の中で次々と浮かんできた。テントの設置し易さやテント内での寝心地等,3年生まで同様,体全体を使って避難所生活を体験することで,F児の「探究的な学び」が保障されると予感した。 【領域の教科化】においては,体全体で感じるからこその「もっと~したい」から,目では捉えにくい抽象度の高い「なぜ・どうして」を明らかにしたいという求めの変化が大きな特徴として挙げられることが分かってきた。教師の役割は,自身の中であらかじめデザインした道行きに即して,F児を位置付けるのではない。また,子どもの傍らに身を置き,ただ肯定したり,見守ったりしているわけでもない。子どもがよさを発揮している時,子どもの「探究的な学び」を支えたくなっている教師が教師自身の探究を絶え間なく繰り広げながら,一途に子どもを捉えようとしている。ただし,子どもの姿を捉え, - 7 -

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